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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第2部「絶海の隠者」
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第2章 序 カンナ誘拐さる

第二章


 未だ気絶しているカンナを運んだまま、メストの四人がカウベニーの港に着いたとき、早い晩秋の日暮れは既に周囲を暗闇に変え、朝の早い漁師たちは一人もおらず、閑散として波と波の岸壁へちゃぷちゃぷと打ちつける音だけが響いていた。


 「風が出てきましたね……」


 カンナを肩に担ぐ楯遣いのマウーラが、曇が流れて星も見えなくなりつつある空を見上げてつぶやく。


 「ヴィーグス」

 「はい」


 小柄で小太りの炎の鞭遣いがランタンへガリアで火を入れ、シロンの横へ(はべ)った。


 「いまから船を出せる船頭を捜してこい」

 「いまからですか?」

 「二度云わせるな」


 言葉にならない返事をして、ヴィーグスは駆けてゆく。バルビィがウガマール産の高級葉巻を出して、ガリアの力で掌内に火花を散らせ、火をつけた。暗がりにせわしい呼吸に合わせて蛍めいて火が光る。芳ばしい香りが風に散った。やがて、ヴィーグスが戻ってきた。


 「シロン様、だめです、だれもいません」

 「そこを探すのが、お前の仕事ではないのか?」

 「で、ですが……」


 「あすこの船に明かりがある。誰かいるんじゃねえの?」


 葉巻をくわえ、木杭の係船柱(けいせんちゅう)へ片足を乗っけたまま、バルビィが並んでゆれる船の一番端を顎で指した。

 

 「あ、ほんとだ」


 間抜けな声を出して、ヴィーグスがその船へ接近した。ランタンの(もと)、携帯用の竃に炭をおこして、フライパンにハーブソルトとたっぷりの菜種油で、自ら釣ったばかりの舌ヒラメの切り身を旨そうに焼いていたのは、リネットだった。


 「おい、おまえ!」

 リネットが顔を上げ、波止場から見下ろす小柄な顔へランタンを向けた。


 「なんだい?」

 リネットの何の疑いも悪意も無い笑顔に、ヴィーグスは嫌悪を感じた。


 「おい、いまからフネを出せ! コンガルへむかうんだ!」


 「いまから? ダメダメ、残念だけど、ボクは違う人たちに雇われてるんだ。それに、魚が焼けたばっかりだし……」


 「うるさい、云うことを聞かないと、とんでもない目にあわせるぞ!」

 ヴィーグスがすごんでも、リネットには滑稽としか映らなかった。


 「ははは」

 「こいつ……なにがおかしい!」

 「だって、とんでもない目って、どういう目だい?」


 「こういう目です」


 カンナをバルビィへ預けたマウーラ、ふわりと甲板へ飛び下りると左手で実剣を抜き払い、剣先でフライパンやら竃やらを引っ掛けると全て海へ放り投げた。さらに驚いて声を上げたリネットめがけ、その首すじに刃をつける。


 「船をコンガルへ向けていますぐ出してもらいましょうか。駄賃ははずみますよ」


 「わ、わかったよ」

 引きつった笑顔で、リネットが両手をあげた。


 一同がぞろぞろと乗り込み、カンナも横たえられる。リネットはランタンの光に微かに見えるカンナに気づいたが、知らないふりをしておいた。


 バルビィが葉巻を海に投げ捨て、船は夜の闇を滑った。


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