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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第2部「絶海の隠者」
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第1章 9-1 銃

 9


 カンナはその轟音に驚いて腰が抜けかけた。海鳥が一斉に飛び立つ。


 どこから現れたのか、近くに四人が立っていた。三人、丘から砂浜へ下りて行き、一人が走り込んでカンナとトケトケへ迫った。


 「ほら、出たわよ!! 護衛、しっかりしてよ!!」


 トケトケが弓を放つが、相手の方が速かった。またバーン! と音がはじけ、何かが飛んでトケトケのガリアに当たり、ガリアを吹っ飛ばされた。トケトケが衝撃で手をおさえる。血が滴っていた。鋼板発条竜射弓(こうばんばねりゅうしゃきゅう)は、霧散して消えた。


 七十キュルト(約七メートル)ほどの距離で、そいつは止まった。中背の船乗りのような姿だが、豊満な体を持つ女だった。ただ、布を巻き付けたアタマから伸びる黒髪は見るからにボサボサで、右目へ黒い眼帯をし、獅子鼻ぎみの、お世辞にも愛らしい顔つきではなかった。下卑た笑いに茶色い八重歯をみせ、何を余裕かましてか、素早く葉巻を取り出すとガリアから火花を出して火を点けた。そして、ゆっくりとふかす。見た目は充分にベテランだが、意外と若そうな雰囲気もかいま見せる。じっさい、歳は二十三であった。


 そのガリアが、見たことも無い不思議な形だ。鉄の筒を横に二本、連ねているものにしか見えない。


 銃だった。石打ち銃のガリアだ!!


 銃は、竜側の国の武器であった。知らない武器が心より出ずるはずなく、ガリアにはならない。したがって、彼女は竜の側から来ていることになる。大口を開けた竜の頭から銃身が連なって飛びでている。銃尻の部分が竜の角の装飾になっていた。ガリア「竜角紋炸裂連弾銃(りゅうかくもんさくれつれんだんじゅう)」であった。


 カンナはガリアを出した。雷紋黒曜共鳴剣(らいもんこくようきょうめいけん)! 陸ならば遠慮はいらない。黄金の線模様が脈動し、ヴ、ヴ、ヴヴヴ、と共鳴してプラズマ光を発する。


 「ほおう……」


 ニヤリと口を開け、紫煙をくゆらせる。その煙が風に乗って、消えた。


 カンナは目の前の敵に集中した。こいつが、ガリア遣いの殺し屋か!


 だが、どうしても共鳴が弱い。なぜか。相手は竜ではない。殺し屋といえども人間だ。殺意が起こらない。


 心が、決意が、甘いのだった。


 それを見透かしたように、眼帯の女が葉巻をぶかぶかと吸いこみ、それを枯れかけた草むらへ叩き捨てるとブーツで執拗に踏みつけて消した。


 「野火になっちまうだろう?」


 片目をカンナへ向け、何のためらいも無く澱みない動きで銃口をつきつける。カンナは何の武器なのか理解できず、戸惑って剣先を向けるのが精一杯だ。


 バガーン!!


 同時に銃声と雷鳴が鳴り響く。


 ガリアの弾丸が稲妻と音圧に弾かれ、どこかへ飛んで行った。すかさずカンナが走り込んで間合いを詰める。飛び道具らしいとは認識できた。剣の間合いに入らなくては!


 「チィ!」


 眼帯が逃げて間合いをはずす。すかさすカンナをねらったが、


 「……いいいぇやああああ!」


 カンナのスイッチが入った。相手が竜だろうと人だろうとかまうものか。相手がガリアを遣うのなら、こっちだって遣うまでだ!


 ドドドド、と海鳴りめいて重低音。黒剣が久しぶりに鳴った。


 「えええい!」


 振りかぶって、音の塊を叩きつけた。いや、それは超音波か。土壇場で新しい力に目覚めたのか。眼帯が銃を撃つ前にそれを食らって耳を押さえた。足がもつれる。


 「……やりやがる!」


 そこへ雷撃! 地面を稲妻がはしり、眼帯め、とっさに跳び上がってそれをかわした。が、放電がその空中の肉体を襲った。バっシ! と痺れ、眼帯が草むらへ転がった。威力は弱まったが、麻痺にはなったようだ。


 「や、やった!」


 思わずカンナがトケトケへ振り返った。無事を確認する余裕ができたのだ。


 カンナの視界に入ったのは、ガリアの鋼鉄弓をケガをしていないほうの片手で振りかぶったトケトケだった。


 カンナは脳天を殴りつけられ、メガネもぶっとんで倒れた。


 「う、う、……」


 血が顔へ滴った。メガネをなんとかとり、トケトケを見上げた。無表情で、トケトケがカンナの腹を蹴りつけ、カンナは気絶した。

 


 一方、丘の上から急斜面を下りてきた三人と対峙したアーリーとマレッティ、ガリアを出して注意深く観察した。アーリーが、ニエッタとパジャーラへ逃げろ、と手で合図した。云われるまでもなく、二人は竜退治も放り捨てて砂浜を駆けて行った。


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