第1章 6-3 暗殺者
「ギロアに仲間ができたのは、最近でさ。去年……いや、一昨年くらいから少しずつ集めたようで。こっちがガリア遣いを増やしたもんだから、向こうも凄腕を仲間にして、こっちのガリア遣いを次から次へと。しまいにゃ、だれもバーレスにきてくれなくなっちめえます」
「どこのガリア遣いだ!? 竜を倒さずに、人を殺すことにガリアを遣うやつばらがいるというのか!?」
「そうなんでさ! いまや、ギロアを頭目にして、ガリア遣いの海賊団みてえなことまでやってやがるんで!!」
「そんな……」
カンナも、衝撃で二の句がつげない。ガリアを人殺しに遣うとは!
しかし、マレッティだけは何をいまさらという顔だった。テーブルに肘をつき、あおるようにエールをまだ飲んでいる。目が据わっているが、何か鈍い光をたたえはじめた。
「あのねえ、きっとそいつらは、スターラのガリア遣いよお」
「……どういうことだ?」
「スターラにはねえ、あまり表立ってはいないけど、ガリア遣いの暗殺者が少なからずいるのよお。地下組織ってやつね。ふだんはまじめに竜を退治してるけど、金で頼まれて、依頼者の商売敵や政敵を殺すのよお。個人的な恨みを晴らすために、大金をつむやつもいるわあ。こんなところまで出張っているとは知らなかったけどねえ」
「えええ……」
カンナは恐ろしくなってきた。そんなやつらに襲われたら、どうすれば良いのか。デリナは、完全に竜の側のダールとして戦ったが、そいつらはそういう問題でも無い。純粋に人が人を殺すために、ガリアを遣う。
「ど、どうしてそんなことになるの? マレッティ」
「どうしてって……殺してくれって頼む人がいるからよお。お金を払ってまでね。恐ろしいのは、人殺しを頼む方だと思わない?」
アーリーが顎をさすった。何かを考えている。
しばらく待って、アーリーがまた口を開いた。
「その、竜を手なずけるという、ギロアというガリア遣いは、どのようなやつだ?」
「ええ……お宅さんほどじゃねえですが、背がでっかくて、ものすごくまっちろい肌をして、長い黒髪をいつも風になびかせて……まるで」
と、云ったところで、おやじがはたとカンナを見た。そして再びゴクリと喉を鳴らす。
「い、いい、いえ! わたしはそんな、りゅりゅ、竜となんて、仲よくというか、竜を手なずけるなんて、ででっ、で、できませんから……!!」
「ふうむ……」
アーリーがまた眼をつむり、腕を組んで考え出した。カンナとおやじが不安げに待ち、マレッティは、がばがばとエールを流し込む。
「よし。分かった。そいつらを見極めるだけはしよう。好んで戦わないがな。我々のガリアは、竜を倒すためのものだから。しかし、降りかかる火の粉は払うぞ」
おやじと女房が何度も祈る仕草をして、感謝の意を表した。酒場の隣の空き家へ三人を案内し、ただで使ってくれと云った。彼の持ち家のようだ。もっとも最初にアーリーの払ったカスタ金貨で、充分に賃貸料も払える。
二階に部屋がちょうど三室あったが、まず一階の居間におちついた。マレッティが酔ってはいるが、腕を組み、アーリーを見すえた。
「アーリー、どういうつもり!?」
「分からないか?」
「わからないわよ」
「カンナは?」
「えっ!? ええと……もしかして、その……わたしに雰囲気の似たガリア遣いというのは……バグルス……とか……」
マレッティが感心して眼と口を丸くする。
(こいつ、自覚してたんだ)
であったが、それは表に出さず、
「ははあ……なるほどねえ」
「そういうことだ。そのギロアとかいうやつ、ガリア遣いでは無いと観た。少し、滞在してみる価値はあるだろう?」
アーリーがにやり、口元を曲げる。
潮風がドアの隙間から入り込んで吊り下がっているランタンを揺らし、アーリーの影を左右させた。




