第1章 5-1 サバイバル生活
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「ま、水でも飲め」
「塩水ならいやというほどのんだわよ、アーリー」
「だから、のどがかわいただろう」
「どうしたの、それ」
マレッティは、アーリーの後ろに、大きな樽があるのを見いだした。水樽だ。
「タータンカ号の漂流物が海岸にたどりついている。新鮮な水だぞ」
「いただくわ」
アーリーが真鍮のカップも差し出した。これも漂流物だろうか。
樽の上蓋はアーリーが破壊しており、真水が樽に満ちていた。つめたく、身体が冷えたが美味だった。マレッティは貪るようにのんだ。
たっぷりとのんで、息をついていると、洞穴の入り口に人の気配がした。
「やあ、気がついたんだね。よかった」
マレッティが身構えて振り返った。
「あんた……」
「リネットだよ。覚えてる?」
「覚えてるわよ、なんであんたがここに?」
「リネットが我々を助けたんだ」
アーリーの言葉に、マレッティが驚きの表情をみせた。
「彼女があの状況下で救命艇を巧みに操り、まずカンナを引き上げた。それから、おまえをつかんで漂流していた私を発見して、素早く艇を寄せ、我々を救ってくれたのだ。あの破壊され沈みゆくタータンカ号から救命艇を出したのも見事だが、操船技術も素晴らしい」
珍しくアーリーがべた褒めしている。マレッティはそちらにも驚きを隠さない。
「それはどうも……ありがと。他の船員は助けなかったの?」
リネットが首を振る。
「むしろ、無事だったのは君たちだけさ。さすが、歴戦のガリア遣いだね」
「ところで、それはなによ?」
同じく漂流したであろう木のバケツに、リネットが何かを入れてもっている。見ると、大きなウニ、手ほどもあるムール貝、それに顔より大きいカニも何匹か、いた。
「獲ってきたの!?」
「そうさ。水もあるし、鍋があればスープにできるんだけど、素焼きで我慢してよ」
云うが、リネットがたき火の中へ無造作にそれらを投げ入れる。すくに、香ばしい食欲をそそる匂いがたちこめた。
不思議なことに、その匂いがしたとたん、カンナの震えが止まった。
「いやねえ、カンナちゃん、食い気で震えが止まるなんて」
「でも……おなかがすきましたので」
カンナは自分でも驚くほどに、食欲が全てを上回った。
ただ焼いただけの貝やウニが、はらわたの芯まで染みた。この熱さが、命をつないでいると実感した。アーリーに到っては、殻ごとカニを貪っている。
「なんとか人心地つきましたねえ……」
食べ終えたカンナは、水を飲み、改めてがっくりと疲れが出て、へたりこんだ。波で削られてすべすべになった丸石だらけの上なので、尻が痛い。
「相変わらず余裕ねえ。人心地もいいけどお、ここは一体全体、どこなわけ?」
「夜になって星が見えれば、だいたいの位置はわかるよ。風景からすると、たぶんパーキャスのどこかだと思うけど」
「パーキャスぅ!? なんでそんなところにいるわけえ!?」
「夜の内に、だいぶん流されてたみたいだね。竜の縄張りにつっこんだんだよ。船長も、ちゃんとボクの云うことをきいておけば、死なずにすんだのにね」
リネットが屈託の無い爽やかな笑顔でそう云って笑ったので、マレッティは眉をひそめた。
(純真そうなカオして、物騒なこと云うのねえ……あんまりこいつとは深入りしないでおこうっと……)
その夜、残念ながら雲は晴れなかった。
翌日も曇っていた。
その翌日も、であった。
さらに翌日も分厚い雲が全員の心に重しをかけた。
「水が無くなってきた……」
アーリーが樽を覗き込んでつぶやいた。
「他に、漂流物はないのお? アーリー」
「油樽ならあったが……水は無い」
「どうするのよお。ひからびちゃうわよお」
「分かっている」
アーリーの顔も渋くなる。毎日風と潮に吹きすさび、顔は皮が裂けるというほどにつっぱり、髪も信じられないほどにゴワゴワしていた。湯とまではゆかずとも水浴びがしたい。服に到っては、である。
「ただいま、こんなにとれましたよ」
カンナとリネットが、またもバケツいっぱいの甲殻・貝類を獲ってくる。マレッティはもううんざりだという顔を隠さなかった。




