第3章 11-2~エピローグ 空の彼方へ~黒い蝶
「ちょってあんたたち……カンナについていこうってえの!?」
「死んでもついてくって決めてんのよ!!」
「神代の向こうよ!? 人間がどうなるかなんて……」
「知ったこっちゃないのよおおお!!」
スティッキィの狂信的な眼に、マレッティは嘆息した。
「勝手にしなさい」
スティッキィ、走りよってマレッティへ抱きつき、口づけした。
「……ありがと。お姉ちゃん。さよなら」
ライバが、立ち上がったスティッキィの手をとる。
そしてマレッティへ片目をつむって見せ、そのままカンナを目指して瞬間移動した。
すぐにカンナへ追いつき、二人ともカンナへしがみついた。
カンナは驚いていたが、諦めたのか、三人で空へ昇ってゆく。
やがて、見えなくなった。
神代の蓋が、完全に消えてしまった。
一人残されたマレッティ、どれほど茫然とその晴々とした空をみつめていただろう。
「……やれやれ、カンナは、本当に行っちゃったんだね」
驚いて腰を抜かさんばかりにひっくり返って尻餅をついた。
なんと、リネットである!!
「な、な、な、なな、あ、あ、あ、あんた……!!」
知らぬ間に立って空をみつめていたリネットが、マレッティへ向かって歩きだした。
マレッティの眼が、恐怖でひきつっていた。
「ヒチリ=キリアの魂だけが常世へ戻って……ボクは助かったんだね。ガラネルも死んだみたいだけど……僕は生きている。生きてるってことは助かったのさ」
マレッティ、心臓を押さえて激しく息をつく。ゆっくりと深呼吸し、
「……すごいわね……あんた……」
「最後に残った……いや、残されたダール……か……」
リネットが、アーリー達を見渡して、つぶやく。
「僕で、きっとダールは最後だよ。もう、二度と生まれないだろうね」
「知らないわよ……!」
「これから、どうするんだい?」
「知らないって云ってるでしょ!!」
リネットが肩をすくめる。
「君らは、どう思う?」
アーリーのかたわらで祈りを捧げていたマラカとパオン=ミ、ゆっくりと立ち上がって、
「……拙者には、なんとも……」
「我もわからぬわ」
リネットが腰へ手を当て、そんな三人を順に見た。
「この四人が、全ての見届け人さ。それぞれ、世界に神話を伝播する役目がある」
「知らないわよ……そんなこと……」
マレッティがデリナを地面へ横たえ、立ち上がった。
「とりあえず、これからどうするのか考えましょ」
マレッティの顔は、清々しいまでに晴れやかだった。マラカとパオン=ミ、リネットも笑顔で応える。
「まずは、シャクナへ戻りましょう」
「アーリー様たちの墓も造らなくては……」
「いちおう、ガラネルもね……」
風が、四人の髪をなびいた。
黒い大きな蝶が飛んでいる。
∽§∽
数百年後であろう。いや、千年後かもしれない……。
砕けた島も緑が生い茂り、尾根には大きな鳥居が建っている。
人が増えると共に竜は数を減らし、絶滅した種もあるが、生き残った種は厳重に保護されるに到った。
ガリアムス・バグルスクス信仰は、ある場所では神鳴神威大神として、ある場所ではまた違う神として、世界中で形を変えて広まっていた。
ほかにも、多数の神が伝わっている。
それが、ダールたちなのか、カンナの妹なのか、カンナと共に消えた二人なのか、生き残って信仰と神話を伝播した人々なのか、それは場所によってさまざまだ。
国や地域によっては、皇太子妃も神として崇められているという。
古式の竜信仰も細々と残り、または復古信仰としてあるようだった。
大昔の聖地の痕跡であるこの島では、新神による封神の後、漆黒のビロード色に稲妻紋様が翡翠に光る美しい蝶が増えた。
その黒蝶は湖周辺にも分布し、新しい聖地を巡礼する人々の眼を楽しませている。
信仰は時に戦ももたらしたが、人は発展したと云ってよいだろう。
上空を、何頭かの竜と共に銀と碧の飛行機が飛んでいた。
「ガリウスの救世者」 了
「バスクス・カンナ」としてスタートし「ガリウスの救世者」として完結した今作は、第1部は公募作品なのでそれの執筆期間を含めると、足掛け5年にわたって関わり続けました。
2部以降、全部後付けでやったわりには、そこそこうまくまとまったかな、と思います。
こんなに長いお話を書いたのは生まれて初めてで、これもなろうという発表の場があったからこそと思います。自分の勉強にもなりました。
お目を通していただいた方々にも、厚く御礼申し上げます。
本当に有難うございました!
たぷから




