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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第2部「絶海の隠者」
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第1章 1-1 旅

 第一章



 1


 マレッティの記憶がたしかならば、経緯はこうである。


 

 サラティス攻防戦で竜属側のダールにしてサラティス攻略竜軍総司令デリナが撤退してから三か月。ヘアム=レイ帝の月となり、南方のサラティスにも栗の美味しい秋の気配が訪れてきた。バグルスは一回も出現していない。竜もめっきり減って、人々は助かっていた。またバスクたちも、特にコーヴは戦力半減の被害を受けており、スカウトが連日各所の可能性鑑定所に詰めて新人を探している。ストゥーリアやウガマール、はては近郊遠方の田舎やラズィンバーグから、バスク不足の噂を聞いたガリア遣いがバスクになるべくサラティスに集まっていた。が、可能性が60以上というのは、意外とおらず、コーヴの戦力はあまり回復していなかった。まして、80以上は云うまでもない。モクスルは数が戻りだしており、定期的に訓練が行われていた。しかし肝心の竜がおらず、いまいち真剣みが無かった。


 そしてカルマも、激戦でフレイラを失い、再び四名となった。しかも、まだモールニヤは北方の要ストゥーリアにいる。バグルスが出てこないので、彼女たちにも出番がない。三か月のあいだ、開店休業の状態だった。


 「ねえちょっとアーリー、モルニャンちゃんはいつ戻ってくるわけえ? そろそろじゃないのお?」


 自主的な警戒偵察以外に食べて飲んで風呂へ入って寝るだけの生活にすっかり倦み、ついでに暇太りで丸くなってきたマレッティは、何か刺激を求めていた。


 「カンナちゃんも暇でしょお? 毎日毎日、お部屋でなにしてるわけ?」

 「えっ? ……と、いや、まあ、その……とくになにも……」


 カンナも、この三か月間、本当に何もしていない。いや、カンナはすっかり引きこもっていた。本来であれば都市救済の英雄であるはずだったが、カンナの見せたあまりに峻烈かつ強大な力に、人々はあの竜側のダール・デリナと同様の恐怖を感じていた。外へ出れば人々の恐れと好奇の眼で削りとられるほど視線が集まる。その攻撃的な、針山めいた視線はカンナの精神を疲弊させるのに充分すぎた。それに、まだフレイラの最期の表情が脳裏から離れない。「マレッティ」との言葉の意味するところが理解できない。


 食事は、下女が運んでくれるし、風呂は誰もいないときに一人で入れる。その意味では、塔は快適だった。あれほど避けていたこのカルマの塔が。


 「ねえ、アーリー、なんとかならないわけえ?」

 最上階の広間において数日に一度招集される定例会議で、マレッティは訴えた。


 「なんとかなりそうだ。モールニヤから返事が来た」

 「なんですって!?」


 何をしているのかと思ったら、モールニヤと連絡をとりあっていたとは。マレッティは感心した。


 「……で、モルニャンちゃんはなんて? 帰って来ないと思ったら、何やってるの?」


 「ストゥーリアで、我々のバスク組織に相当するガリア遣い組織の立ち上げを命じていたが、そろそろ私たちに来てほしいそうだ。この様子では、サラティスはしばらく……少なくとも来春までは大丈夫だろう。デリナも……しばし傷を癒し、精神を憩うはずだ」


 アーリーが目を細め、窓の外を何とはなしにみつめたのを、マレッティが憎々しげに一瞥したが、カンナは気づかない。


 「で? 敵の大将がきっと休んでるからって、本気でサラティスを留守にする気? まさかアーリーだけ行くの?」


 「いや、三人で行くつもりだ」


 「悪いけど……何かしたいとは云ったけどお、ストゥーリアに行くのなら、あたしはごめんだわあ。二人で行ってちょうだい。留守番してるからあ」


 マレッティが鼻息も荒く、腕を組んだまま右手をヒラヒラと振った。カンナが不思議そうにマレッティを見る。その視線に気づき、マレッティが時折みせる羅刹の如き眼で睨んできたので、カンナはあわてて目をそらした。


 「三人で行く。留守は黒猫にまかせる」


 黒猫とは、カルマの塔の一切の経理を担っている女性のことである。いつも一階のホールにいて、ひたすら書類を作成している。


 「はあ? あの女にい? ちょっと、なに云ってるの?」


 「黒猫は、実はコーヴ級のバスクだ。いや……ほぼカルマと云ってもいい。彼女にコーヴ有志の統括をまかせる。なんだかんだと、大金をつめば動いてくれる者もいる。たとえバグルスが来ても、一匹、二匹ならば大丈夫だ」


 アーリーは、変なところで現実的だった。


 「お金で解決ねえ……ま、いい考えかもねえ。だけどお、あの書類書きがバスクだったとはねえ……カンナちゃん、知ってたあ?」


 「あ、う……」


 フレイラと云い合ったあの決戦前夜。たしかにカンナは黒猫の蜘蛛の糸のようなガリアを見た。しかし、すっかり忘れていた。なんと答えればマレッティの気分を害さないか考えている内に、マレッティは気分を害したようだ。


 「知ってたんだあ。来たばっかりなのにねえ。へええ、ひとっこともないのね」

 「あ、いやその、す、すみ、すみま、すみません……」

 「あなたって、抜け目ないわよね。何をどれだけ知ってるのか、得体が知れないし……」


 「そっ、そんなこと……」

 「べつにいいけどお!」


 カンナへ抱きつき、マレッティはいつもの割れ鐘めいた高い笑い声を発した。カンナは背筋が凍りついた。鳥肌がたつ。

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