第3章 9-5 アーリーの吐露
「どういうつもり、アーリー! 手を抜いて、お情けでもかけてるつもり!?」
アーリーは炎色の眼を細めて、やや半身となって斬竜剣を右手下段に構えた。
「なんとか云いなさいな、アーリー!!」
しかし、アーリーは無言だった。
「……そうやって……前も……黙って……私から……」
デリナの槍が下段よりさらに下がる。そのまま、デリナは構えを解いた。ふつうに槍をもったまま、ぼろぼろと涙をこぼしてアーリーへ子供のような顔を見せ、
「どうしてあたしを裏切ったのよお……」
ほぼ一年前、カンナとの戦いの後にアーリーへ向けて放った言葉と同じ言葉を向ける。
アーリーは目をつむった。
「答えて!!」
アーリーの口は開かない。
「アーリー!!」
「……裏切ったわけではない」
デリナが息をのむ。そして、その竜の牙をギリッとくいしばった。
「裏切ったでしょ!! 血の盟約を忘れたの!? 貴女は、カンチュルクも裏切ったのよ!!」
「私は、お前が思っているほど、完璧ではない!!」
アーリーの怒気に、デリナが意表をつかれて狼狽した。
「私は弱い……私の心は、誰もが思っているほど強くはない……」
初めて聴くアーリーの吐露に、デリナの狼狽は止まらぬ。
「デリー……血の盟約と云ったな……では、逆に聴く。なぜ、グルジュワンが聖地とつながっていることを隠していた」
「え……」
デリナ、あまりに意表をついたアーリーの言葉に、目を丸くする。
「そんなこと……国と国の話……カンチュルクだって……」
「そうだ……カンチュルクとて、皇帝を廃し、親王家を新たに帝位へつけようとしていた……だが、聖地となると話は別ではないのか?」
「同じよ! 貴女はけっきょく、そのカンチュルクをも裏切ってるわ!! 自分の故国を!!」
「カンチュルは既に、私の考えへ同意している」
デリナは一瞬、何を云っているのか理解できなかった。
「まさか……竜属と竜王朝を滅ぼすことに!?」
「そうだ」
「ふざけないで!!」
デリナが槍の石突きで地面を突いた。毒霧があふれて噴き出し、風へ流れる。
また、上空でカンナと竜神の爆発がおき、衝撃波が飛んできて二人の髪をなびかせた。
「アーリー……そんなくだらない理由で私を本当に裏切ったのだとしたら……」
うつむき加減で、デリナが震えだす。
「……私は弱いと云った……私とて、ディスケル帝国の人間だ……カンチュルク王もそうだが……それ以上に皇帝陛下に……勅命には逆らえん……カンチュルクは尊皇を尊ぶ……かつて、ディスケル=カウラン帝は聖地との決別を決意した……聖地とつながるグルジュワンを信用するわけにはゆかん……」
「……何ですって……」
「デリー……許してくれとは云わん……」
「許すわけないじゃない!!」
まさに涙をふりしぼり、デリナが再び顔を上げる。
アーリーは再び眼をつむった。
「どうして……」
デリナが声をふるわせる。
「どうしてわたしについて来いって云わなかったよ!!」
「なに……」
「グルジュワンを裏切れって……云ってほしかった……いっそのこと……」
さすがのアーリーが動揺する。まさか、デリナがそのように思っていたとは。
「わたしが……アーリーを……どう思っていたか……考えもしなかったんでしょう……」
「いや……」
炎色片刃斬竜剣の炎がゆらめいた。アーリーの動揺を映すかのように。
デリナが、がっくりと膝をつく。槍へすがって、その黒髪が地面へつくほどにうなだれた。
「デリー……」
アーリー、成す術なく、立ちつくす。
再び上空で大爆発が起こった。ガラネルとショウ=マイラ達の戦いも、ガラネルが次からつぎへとバグルスや主戦竜の死体を蘇らせて襲っている。はぐれたバグルスの生きた死体が、二人にも襲いかかってきた。




