第3章 9-1 バスクスの姉妹
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なんといっても、ストラ竜神とカンナ、レラの戦いは天地をゆるがす。三人が聖地の上空でそのガリアの力を超えたまさに神通力ともいえるほどの恐ろしい力をぶつけ合う。
それを遠目に、新カツコ宿、コアン関、それにシャクナに加えそれらの周辺の村々の人々、かつての聖地ピ=パとピ=パ湖の周辺に住む全ての人々がそれを目撃し、そして見物し、拝み、歓声を上げた。鉦、大小の太鼓、その他そこらへんのものを激しく打ち鳴らし、
「ワッショイ!」
「ありがたや! ありがたや!!」
「めでたや!! えー、めでたや!!」
「萬歳、萬歳、萬萬歳!!」
などと言祝ぐ。すなわち、荒御霊と荒御霊による神々の戦いは、ホレイサン=スタルの人々にとっては「祭」なのだった。神は荒御霊と和御霊とが入れ代わり、荒御霊あっての和御霊、和御霊あっての荒御霊。それらが交互に入れ代わってこそ正常自然で、どちらかに偏っては異常という考えだった。大自然の荒ぶりこそが荒御霊の象徴であって、その後に田畑海幸山幸の豊饒が約束される。祭に際し、御輿を激しく揺さぶり、時に御輿同士を激しくぶつかり合わせる喧嘩御輿も「魂振り」によって神の御霊を活性化させる意味を持つ。
いま眼前で行われている神々の戦いは、壮大にして本物の神の魂振りに他ならない。ホレイサン人にとって、まさに神話を体験する言語を絶する有り難さである。
この戦いによって、ホレイサン=スタルはさらに数千年の発展を約束されたも同然であった。
人々が興奮し、陶酔するのも無理はない。
とはいえ……。
その余波が、ときおり飛んでくる。上空でカンナの放った雷が、明後日の方向へまぎれて村人の眼前へ落ちた。炸裂して地面を穿ち、電磁波と衝撃波が前に出ていた何人かの村人を打ち倒した。
「……!!」
人々は一瞬の静寂の後、さらに興奮して、
「ウゥワッショイ! ウゥワッショイ!!」
「ありがたやあー!! ハイィ!! あありがたやああー!! ハイィ!!」
神々の戦いを諸手を上げて盛り上げ、どちらを応援するでも無く、さらに激しさを増すことを願って狂ったように囃したてた。
そんな人々の願いと想いが、神へ直接届くものである。
カンナは困惑したが、ストラ竜神はますます楽しげにその身を震わせた。
「そうれ、二人がかりでこの程度では、とても真なる神とはなりえぬぞ!!」
二人の音響衝撃雷撃波と超圧重力風を同時にくらっても涼しい顔をしながら、さらに神の天限儀、古代青銅武器である長柄の戈を片手で構えて、手招きする。その銘も「紫皇竜金眼紋神戈」だ。
「生意気なガキだぜ!!」
レラがその見た目に惑わされ、黒刀であるガリア「風紋黒玻璃重波刀」をふりかざし、
「姉貴は下がってろ!!」
「……まって、レラ!」
カンナの云うことも聴かず、レラが吶喊をかける。
「そおおおりゃああああ!!」
重力を縒り合わせ、巨大なドリルのようにして竜神の神威の防御壁をガリガリと突き破ってゆく。ある意味、神をも恐れぬその心が攻撃の威力を倍増させているので、レラの戦い方は正しい。
同時に、レラの背後に空間をゆがめて重力レンズ!
「姉貴ィ!」
「……わかった!」
カンナはそのレンズめがけて、ありったけの轟雷を集める。出し惜しみも駆け引きもするつもりはなかった。神を相手に正攻法以外に何をどうするというのか。それで通じなかったら、もうそれでよい。自分は負けるだけだ。
「その意気やよし!!」
ストラ竜神がまた口から紫の死線を放つ。竜の息吹でもあるし、よく見やると別に口から光線を吐いているわけでもない。それは声だった。神の声が高周波として口の前より光線状に発せられている。しかしそれでは、その両目から発射されている怪光線は!? それは、文字通り視線だ。神の視線はそれだけで敵を撃ち倒す!!
レラが砕いた神威の穴へ、カンナの轟雷を収束させた呆れるほどのプラズマ流がまさに竜となってほとばしる。レラは重力の操作で、一瞬の間にその場所から逃れた。従ってストラ竜神の三つの紫の死の光線とカンナのプラズマの雷竜がまともにぶつかり合う。
空気……いや、もはや空間を引き裂く歪んだ爆音と大爆発がピ=パ湖の上空で連続して起きた。閃光と爆風が周囲を大火山のカルデラ噴火めいて起き上がり、天空高く煙を吹き上げて渦巻き、日光を遮った。




