序 回想
空は、重苦しい灰色に満ちている。
三人の女がぬれていた。
晩秋の波濤はひっきりなしに荒々しい岩だらけの海岸に打ち寄せては微塵に砕け、洞穴の入り口へ波飛沫をまき散らしていた。気温が低く、風も冷たい。足の先、脳天、尻の底から全身をじっとりと冷えが襲った。
マレッティは仁王立ちで両手を腰に当て、藻屑の切れっ端を濡れた濃い金髪へひっかけたまま、北方人特有の白い肌を低温がさらに白くさせている。青い瞳は細く鈍いやりきれない怒りの光をたたえ、ずぶ濡れの服をアーリーの出した炎へあてたまま眉をよせ、厳しい表情を隠しもしなかった。
「どうして……」
その声は、炎の向こうにいるアーリーへ容赦なく向けられる。
「どうしてあたしたちは、こんなところで濡れねずみになっているのかしらねえ、アーリー」
アーリーは例によっで無言だった。愛用の紅い赤竜鱗の軽鎧は、火には強いが水には弱い。重く水を吸ってずっしりとアーリーの二十キュルト(約二メートル)はある大柄な肉体へ重しをかけた。
アーリーは、一面に転がる大きな握りこぶし大の石くれをものともせずに胡座をかき、自らのガリアの力で出現させた炎を凝視している。火と同じ色の赤毛も、紅い竜の瞳も、微動だにせぬ。ときおり、枯れきった流木を炎へ投げ入れた。赤竜との半竜人であるアーリーは、水は勝手がちがった。
波の砕ける不規則な轟音が、洞穴内へこだまする。その響きやまぬ重低音にまぎれ、独特の漆喰のような乳白色の真っ白い顔をより青白くし、戦いの衝撃と未経験の寒さに白眼をむいてひたすら震えているカンナの歯の鳴る音が、小刻みにいつまでも続いている。微細に光を反射する黒鉄色の長く細い髪は無残に潮へ濡れそぼっていた。暗がりにメガネが火を反射し、物も云えずにただただ震えている。
ここは都市国家「バスクの街」サラティスより遙か北西、港町リーディアリードのまた北西海上四十ルット(約八十キロ)に浮かぶ、パーキャス諸島のどこかの小島の洞穴だった。このような小島はこの諸島に千とあるし、このような洞穴も大小無数にある。名も知らぬ海鳥の果てしない群れが鳴き声と共にが風へまぎれ、海響が無限に折り重なり、地鳴りめいて轟いている。
マレッティは深くため息をつき、いまごろはストゥーリアにいるはずの自分がどうしてここにいて、水難に苦しんでいるのか整理した。




