第3章 8-3 最後の、食事
「天限儀が、貴女の肉体を支えています。いま、貴女の天限儀は最高に力を発揮するようになっており、その肉体も以前よりずっとその負荷に耐えられます。……私の計算が間違っていなければ」
「えっ……」
最後に、何か云った。
カンナは聞かなかったことにした。
「あの女の子の神様は、どうなってます?」
「女の子?」
ストラ竜神を間近で見ていないので、スミナムチはあのカンナと戦っていたカラスみたいに小さく見えた相手が少女だとは気づいていなかった。
「私は……そちらは、よくわかりません。皇子様や、アーリーさんにお尋ねください。私の仕事は、終わりました。では、さようなら。貴女を診れて、よかった」
スミナムチことアラス=ミレ博士は、満面の笑顔でカンナを抱きしめた。
そして耳元で、
「最後の最後に困ったら、思いっきり右の奥歯をかんでくださいね」
と囁いた。
「?」
カンナは茫然と、退室する博士を見送る。
「カンナ! 目覚めたか!」
着替えと共にあったメガネをかけ、技術者たちに連れられて神社の母屋の居間へやってきたカンナへ、アーリー、パオン=ミ、スティッキィ、ライバが立ち上がって駆けよる。
「もう七日たったわけえ?」
マレッティは煎茶をすすり、卓へついたまま動かなかったが、それでもやや感慨深げにそうカンナを見やった。
「パオン=ミ、すまないがコアンの関所へ報告を」
すぐさまパオン=ミがスーリーを駆り、シャクナを飛び立った。また、マラカはアーリーの命で街道筋から湖の周囲を常に探っており、いまはいなかった。
「カンナ……気分は、どうだ?」
アーリーとカンナが見つめあう。その炎色の瞳と翡翠色の瞳が、視線を混じり合わせた。カンナにとっては、冬の終わりにストゥーリアで別れて以来だ。
「気分? いいよ」
カンナは普通に答えた。実際、顔色も良いし、傷も全て治っている。さすが、聖地の施設だ。
「次の戦いは……」
「分かってる。たぶん、もう、あの神様も出てくるよ。あの島で待ってる。行かなくちゃ」
カンナ、すぐにも行こうとする。
「待て!」
「なに?」
「一人では戦わせない。私たちも行く」
私たちとは、ダール三人とレラだ。
カンナがスティッキィとライバを見た。既に涙目だった。
「二人は、島まで着いてゆくのは無理だ。せめて……」
「わかってる。あの、丘の上で見てるから」
スティッキィがライバの手を取って云う。マレッティは卓でうつ伏せ気味に丸まったまま無言だった。
「まだ、時間はあるだろう。食事くらいしてゆけ。ショウ=マイラ達のおかげで、供物が凄いぞ」
アーリーが苦笑しながら云った。ガラネルとショウ=マイラで互いに説法をやり、また勅使の話も広がっていまや聖地は周辺地域からの参拝客でごった返していた。たったの数日で、数千人が訪れている。もっと時間があれば、きっとホレイサン中から数万人が訪れていただろう。
またホレイサン人の不可思議なところは、ストラ竜神とカンナと、両方拝んで等しく賽銭を出し、供物を置いて帰って行く。ふつうは、どっちの宗派がどうとか争いになると思われるが……。
「一部の者はそうなっているが、どちらにせよ詔勅が出たからな。あとは、カンナと竜神が神業合を行うだけだ」
少なからず、カンナは驚いて声も無かった。
「ハ! まるで見世物ね。アーリーは本当にそれでいいわけ」
マレッティがまだカンナを見もせずに云い放つ。
「良いも悪いも無い。我らはそれを利用し、古い神を封じて新しい世紀を開くだけだ」
「あっそ」
マレッティがそっけなく答える。そういう自分だってカンナを利用し、デリナを助けることを目論んでいる。
「マレッティ」
カンナに呼びかけられ、マレッティが流石にまたカンナを横目で見やった。




