第3章 7-10 勅使の言上
「最後に、もう一度、問う」
「なんだ」
「赤竜よ。お前は、古き神が実体化してこの世へ停まれば、この世に悪害を成すと云った。だが、カンナはどうだ。人と竜の架け橋などと抜かしたが……新しき神も、じっさいにこの世にいたままでは、同じことではないか」
「……カンナは、私が始末をつける」
思わずヒチリ=キリアが振り返った。その顔は、意表をつかれて驚きに固まっている。
アーリーはもう、瞑想へ戻っていた。
「フン……」
その場を去るヒチリ=キリアは、笑っていた。
ヒチリ=キリアは、ガラネルの元へ戻らなかった。
もう、シャクナへ様子を見に行って四日になる。
ガラネルが、怒りというより不安げに苛ついていた。
「……どうして戻らないのかしら」
指をかじり、目元を引きつらせる。そんなに焦っているガラネルを、デリナは初めて見た。
「貴女の術がきれて、リネットに戻ったんじゃないの?」
「そうなのかな……でも、どうして……!?」
「分からないけど……」
「分からないのなら、黙っていなさいな!!」
デリナは嘆息し、肩をすくめた。
「……ごめん。ちょっと、ヒチリ=キリアに確認したいことがあって……」
「彼女の役目は、貴女にとって、きっと、もう終わったのよ」
「そうなのかもね」
ガラネルが頬杖をついてがっくりと肩を落とす。うまく行っていると思ったが……こんなところでつまづきだすとは。
(探し出して強引に連れてきたところで……何も答えなれば意味がない……素直に従うとも思えないし、仮初の復活だとしても黄竜……バグルスなんかじゃ連行も無理。あたしが行かないと……けど、行ってる場合じゃないし……。そもそも、本来はとっくに術が切れててしかるべき……もう……あたしにとっても用が無くなっているはずだし……気にしてても仕方がないのかな……)
眉を寄せてグダグダ考えていると、
「宮司様!」
また、村人が駆けこんできた。
「こんどはなんなの!?」
デリナがやや苛ついた声をあげ、村人が平伏する。
「も、もうしわけごぜえやせん。み、み、都から、天子様の御使者が参られました……!」
「は?」
デリナに云われ、ガラネルがデリナと顔を見合わせる。
「勅使ってこと!?」
向こうから動いてくれた。ガラネルはこれ幸いと、あわてて身支度を整え、デリナと表へ出る。
輿付の立派なホレイサン超主戦竜属である天王光竜へ乗ってきた人々が広場に数名おり、村人やこちらへ集まっていた武士らが平伏していた。天王光竜は全体に細長く、長い白毛に翼が鳥のように羽毛のある独特の姿をした竜だった。
二人が人をかき分けて前に出て、初老の勅使を出迎える。片膝をついて平伏して両手を掲げて前で合わせて頭を下げるディスケル様式の礼をし、
「かような急ごしらえの本殿へ御来訪いただき、感謝恭悦の極み! 畏くも主上におかれては既に紫竜皇神様御顕現の報に接しておられる御様子。まずは、仮ではございますが御本殿にて紫竜皇神様へ御拝礼賜りたく……!」
「よしなに」
勅使が独特の抑揚で歌うように云い放ち、腰を曲げたままの二人を先導にして奥へ向かう。仮とはいえなかなか立派な鳥居と本殿が建てられており、本殿の真向に砕けた聖地とその頂上に佇むストラ竜神の神体が日に光って紫に輝いてた。
勅使はガラネルの祭礼で丁寧にその神体へ向けて拝礼した。
これで、ガラネルたちの教えは一定の権威を持った。なにせ、ホレイサンの帝が拝んだも同じなのだ。ガラネルは興奮した。無理もない。
だが、勅使の言上に仰天することになる。
仮本殿の中の上座へ座った勅使が読み上げる詔勅を聴いたデリナや仮に配置した教団幹部が、驚きのあまり声も無い。何事かとデリナへ問い、デリナから聞いたガラネル、
「な……なんと仰せられます!?」




