第3章 7-8 アーリーとヒチリ=キリアの対話
「ところで、勅使殿……」
「なにか」
「ショウ=マイラたちについてですが……」
アーリーとミナモで今後の打ち合わせを行い、それ以外の者たちは退室した。
スミナムチはさっそく割烹着めいた白衣へ着替え、カンナのねむる調製施設を訪れる。パオン=ミとスティッキィ、ライバも元の服へ着替えて着いてきた。マラカは、アーリーへ控えている。マレッティは少し休むことになった。風呂でも使うのだろう。
「すごい! これがウガマールのガリアムス・バグルスクス!」
聖地から派遣されてここへ常駐している技術者たちを従えた博士が、暗がりでカンナを見下ろして細かく震えだした。
「よくもまあ、今は失われた技術をここまで再現したものだわ!!」
調整槽の縁へすがりつき、なめつくすように薄緑色に光る液体に沈むカンナの頭のてっぺんからつま先まで凝視する。
(できれば解剖したい……)
さすがに、それは声に出さなかった。
「あ、あの、スミナムチ殿……?」
パオン=ミが声をかけるが、博士は気づかぬ。
「スミナムチ殿?」
技術者が博士をゆさぶり、やっとスミナムチが振り返った。
「え、はい? なんでしょう?」
「本当に……任せてよろしいのか?」
パオン=ミならずとも、不安になる。
「おまかせ下さい! もう、最強、最狂、最凶、最恐に……調整してみせます!!」
何を云っているのやら……三人は顔を見合わせたが、如何ともしがたい。手伝えることも無く、後ろ髪を引かれながらその場を後にした。
スミナムチのメガネが、大蝋燭へ不気味に光っている。
その、夜である。
ウガマールで設えた馴染みのバスク服へ戻ったアーリーが、風呂を使ってゆっくりと神社内にある宿泊所の縁側で瞑想していた。初夏の夜の月は、意外と冷え冷えとしていた。カンナの眠る調整施設と、眼と鼻の先である。いつでも、駆けつけられる。
蝙蝠が、アーリーの顔のすぐ前を飛んだ。
アーリーが、静かに目を開ける。
眼前へ、月光にその身を浮かばせて、リネットが立っていた。
いや、リネットではない……。
その眼が、青竜のガリア由来の青ではなく、黄竜の由来である黄金に光っている。
「……何用だ」
アーリーが深いアルトの声で尋ねた。
「この人物を見知っているのか? 赤竜よ」
リネットの声だが、明らかにリネットではない。ヒチリ=キリアだ。
「その人物は知っている。おまえは知らん」
「私はヒチリ=キリア。紫竜の秘儀で仮初めに蘇った黄竜だ」
「紫竜の秘儀……そのようなものが、本当に」
「私も信じていなかったが、これ、このとおりだ」
ヒチリ=キリアが笑う。
「で、何用だ」
アーリーがもう一度、尋ねる。火のガリアを映すその炎色の眼が、きゅっと細くなった。胡座のまま微動だにしないが、すぐさまとびかかってリネットの細い首をへし折れる体勢だ。
「当代の赤竜へ問う」
「なんだ」
「なにゆえ、新たな神をその手で作り出してまで我らが始祖神へ抗う」
「役目が終わったからだ」
アーリーが即答した。
「古き神のか」
「然り」
「なぜ、そう思うようになった」
「先々代ディスケル皇帝より、聖地の様変わりを聴いた時より」
「聖地が様変わり……?」
「およそ五十年ほどまえだ。聖地で何があったのかは知らん……。聖地は、古代の竜神支配を現代へ復活させようと目論み始めた。超古代の、人の営みが細かなムラとしてしか存在しなかった時代では、それでもよいのだろう……。しかし、いまはどうだ……世界の半分を支配するような帝国が生まれては滅び……人は停滞のときを迎えている……。そこで、古代へ戻るようなことをして、どうなるというのか……」
「浅はかな憶測だな、赤竜よ」




