第3章 7-6 復活の七日~勅使
アーリーが尋ねる。
「七日ほどかと」
大宮司が断言した。
「七日か……」
アーリーが深く云いなおした。その間、たとえ竜神が来ても、死守しなくてはならぬ。
その不安を見透かしたように、大宮司、
「いいえ……おそらく紫竜神様は来られますまい」
アーリーたちが息をのんだ。
「なぜわかる」
「すぐに分かります。神と神の戦いとは、そういうものなのです」
意味が分からない。
「人と神の関係は、神が人を望むのではありません。人が神を望むのです。神は、それゆえにカミなのです」
大宮司はそこまで云うとカンナを伏し拝み、長々と祝詞を唱え始めた。アーリー達は彼らに任せ、そっとその場を後にした。
この期間は、後に「復活の七日間」と呼ばれることとなる。
それから三日ほどは、何事も無さ過ぎて拍子抜けするほどだった。ホレイサン式の風呂へ入り質素だが上質の食事を出され、たっぷりとねむり、按摩や針治療を受け、一同は英気を養った。先日より南街道へ様子を見に行っていたマラカが帰ってきて、アーリーへ報告する。
「お三方も、関所で似たような待遇を受けておられますぞ」
「どういうこと?」
スティッキィが訝しがり、マラカはショウ=マイラの言葉を三人へ伝える。
「ふうむ……」
アーリーが胡坐で腕を組み、考えこんだ。状況説明と、
「そのうち、遠からず皇都から帝の使者が来るから、うまく取り計らうように」
とのことだった。
「使者な……」
帝の直接の使者というからには、勅使だろう。無碍には扱えぬ。
なんと、その日の午後、さっそく勅使が来た。大宮司が鳥居まで出迎え、命によりアーリー達もホレイサンの朝服に着替えて列する。いちおう女性用だったので、巫女装束に似ていた。なんと、この三日のあいだに四人分の服が仕立てられていた。慣れない格好で所作も何も分からなかったが、大宮司と宮司たちに並んで、アーリー、パオン=ミ、スティッキィ、マラカの順で居並ぶ。見よう見まねで薄っぺらい木の板めいたもの(笏である)をもち、ぎこちなく礼をする。
とにかく服が重くて、頭の髪飾りもずっしりとして一度礼をするとなかなか頭が持ち上がらなかった。気配で眼前を何人かが通り過ぎ、勅使たちはそのまま上殿して神殿へ拝礼すると、奥座の上座に鎮座した。
一同が部屋へ入り、大宮司を先頭に居並んで上座の人物へ深く拝礼して、
「面をあげよ」
というので顔を上げて見やったが、
「あっ……!」
と、アーリーたちが声をあげた。
なんと、勅使はミナモ、お供でやってきて、両脇に向かい合って座っているのはスミナムチと、マレッティであった。
「なあにやってんのよお、あんた!」
思わず立ち膝でスティッキッィが叫んだ。
似たような装束に身を包んだマレッティは肩をすくめ、
「いろいろあってね」
などと云う。
「ありすぎでしょ!」
「落ち着かれよ」
すました顔でミナモが声を出す。勅使の声は帝と同じだ。大宮司や側近たちが畳へ額を擦りつけんばかりに平伏したので、アーリーらも仕方なく礼をする。
ミナモは懐中より折りたたまれた勅書を出し、深く書へ一礼すると広げて読んだ。あまり長いものではなく、要約すると、こうである。
「朕と我が竜足下の国の諸々の民人は御顕現なされし古き竜神様とそれを鎮めし新神様の神業合の結果に従う」
「なんと……!」
思わずアーリーが顔を上げた。ミナモが勅書を一同へ見せ、また大宮司を筆頭に深く拝礼する。
そして勅書が再び懐中へ仕舞われ、ようやく一同がおちついた。ミナモもややくだけた調子で、
「そういうことだ。ホレイサンとは、そういう国よ」
「然り、然り」
大宮司もうなずく。




