第3章 7-3 三竜鼎談
「マイカもすました顔で食ってんじゃねえよ、アーリーや姉貴のことを思えば……」
「レラ、もうそんな口調はやめなさい。……といっても、ウガマール語だからかまいませんけども。しかし、ホレイサン語も勉強することですね。片言でも神託が出れば、違いますし」
「こいつ、話を聴けよ!」
レラが目をむいたが、
「いま食べるのと、いざというときに空腹でカンナやアーリーの手助けをできないのと、どっちがよいのですか?」
レラはグッと喉を鳴らして黙りこみ、目の前の膳に並ぶ小分けされた料理の数々を、片端から口にした。箸は使えないが刺し箸や匙で勘弁してもらう。八寸、野菜の煮物、鳥や魚の焼き物、鳥団子汁、白飯、などだ。ウガマールの香辛料料理に比べると、やたらと薄い奇妙な味に感じたが、不味くはなかった。あの災害の後、よくもまあこれだけそろえられたものだが、南側は揺れが少なく、あまり被害がなかったのだという。
そんなコアン関を遠巻きから驚愕と感心の眼で見つめ、思わずうなずいたのが、ガラネルだった。
小柄なバグルスへ布をかぶせて変装させ、様子を探らせて報告を受ける。低完成度ながら雑事バグルスは人間と簡単な会話ができ、もちろんホレイサン語も解する。バグルスとダールは、特有のバグルス語というか、竜語というか……とにかく意思疎通ができるので、生き残ったのを幸いに通訳として連れてきた。
思っていたより人が集まっていたので驚き、離れた場所へ日空竜を下して待機させ、戻ってきたバグルスから話を聞いたガラネル、
「やってくれるわね!」
地団太を踏むほど悔しがった。
「先手を打たれたか……!」
で、あった。
「アーリーなんかの考えじゃ、こうはいかないわ! ショウ=マイラか誰かね……! さすがに……!」
ガラネルの顔が思案にゆがむ。こうなっては下手に手出しできぬ。力づくではだめだ。一種の布教合戦に持ちこまれた。その結果、下っ端の信者同士で暴力的な衝突がおきるのは仕方ない。だが、まだ早い。最初から上が手を出しては、向こうに大義を与えてしまう。
「悪神が来た!」
と……。
「負けてらんないわね! どっちが悪神か、思い知らせてやるんだから!」
ガラネルは日空竜へ乗り、帰ろうとした。が、その前に……。
その夜。
威勢は良いがやはり疲れたのか、レラは布団でぐっすりとねむってしまった。
マイカとショウ=マイラが今後を打ち合わせている。
そこへ、
「クゥ……クゥ……」
独特の鳴き声が襖越しに庭のほうから聞こえてくる。二人はすぐに分かった。バグルスだ。立ち上がって襖を開け、廊下の雨戸も開けて庭へ出る。夜半から雲が出ているらしく星も月も無く真っ暗だったが、バグルスの発光器が黄色へ鈍く光ったのでわかった。
「何の用ですか? 紫竜」
闇へ向かってマイカが落ち着いた声をかけた。
「あんたが碧竜ね? よくもまあ、今までうまく隠れてたものね」
闇へ薄翠色に光る眼と、薄紫に光る眼が交差する。
「それは、黄竜に云ってあげてください」
後ろから、黄金に輝く眼が現れた。三者とも、ダールと天限儀の力が反射して目を内側より光らせ、完全ではないが闇を見通すことができる。
三者は闇の中で、ひそひそと三竜秘密会談をもった。
「あんたたち、何百年も行方をくらませて後世へ迷惑かけておいて、いまさら何を考えてるの!? 本気でカンナを新しい神にするつもり!?」
「それは結果論です。我らは別に、カンナだから担ぎ上げようというのではありません。たまたまカンナだったのです」
「おんなじことでしょ!」
「そういうあなたこそ、本当に竜神様を御顕現させて、畏れ多いと思わないの!? あり得ないわ! ね? ね? マイカもそう思うでしょ!?」
「あんたが一番の元凶じゃない! 二百五十年以上もどこに行ってたのよ!!」
深夜の敵地なので声は荒げないが、語気は鋭い。
「紫竜は、聖地に騙されています! あそこが考えているのは、人を超古代の文明まで退化させることですよ! その神へ仕えることだけを望んで、人を神の従僕にしようとしている! 人の世の発展など、まったく考えていない!」




