第3章 5-5 街道筋の偵察
と……。
何人かが転がるようにして、食事をしていたガラネル達めがけて走ってきた。
「宮司様、たいへんです!」
「何事ですか」
デリナが立ち上がった。背が大きいので、その村人が畏れ入ってひれ伏す。
「お、おっ、お食事中のところ、もも、もうしわけもごぜえません。みみ、南街道で、見知らぬ天限儀士様がなにやらやらかして、おっ、大騒ぎとなっております。こ、これはもしや、宮司様方が先日おっしゃってた、さ、さ、西方の悪神どもの一味かと……」
三人が見合う。カンナだ。
「いや、カンナは足腰立たなくなっているはず……こんな短期間で回復はないわ」
ガラネルが茶を飲みほして云う。
「じゃあ、あのもう一人のバスクス?」
「さあ……アーリーと仲間のダールかもね」
「どうするの?」
「どうしよっか」
ガラネルとデリナが、まだ泰然と漬物と竜汁で玄米を食べているヒチリ=キリアを見やった。
「私へ意見を求めるのか?」
「参考までによ。いちおう黄竜でしょ?」
「用が無くなったら常世へ帰れと云っていたくせに、都合のよいことよ」
「これが、その用かもしれないじゃない。術が終わらない」
ヒチリ=キリアが苦笑し、椀を置いた。
「囮だろう。カンナの回復をするなら……シャクナの予備施設だ。あそこは聖地のバグルス施設に何かあったときのために、私が作らせた町だ。今から数えて、およそ三百年ほど前だがな……」
「今でも調整施設があると?」
「さあな。ホレイサン人にきいてみろ」
デリナが村人へ聴いてみたが、知っているはずも無く……。
「あそこは、ここの分社町です」
「こことあそこの大社と、両方参るのがならわしで」
などと云う。
「ま、一般人が知るはずもないか」
「どうするの?」
デリナがもう一度、尋ねる。
「ほっとくわけにもいかないでしょう?」
ガラネルが立つ。
「デリナはここにいて、みんなの相手をしていてちょうだい。私はそっちの囮へ行ってみる。ヒチリ=キリアはそのシャクナとやらへ行って。詳しいんでしょう? カンナ……というより、おそらくカンナを連れて行ってるのはアーリーだろうから、アーリーの相手をしてもらうわ」
「どこまでやるんだ?」
そこも問題だ。竜神が次に顕現した時に、カンナが回復しているのがいいのか、回復を阻止している状態がいいのか、倒してしまってもいいのか。
「やっぱりカンナを倒すのはまずいわ。竜神様の獲物を横取りしてしまう……こっちが生贄にされるわよ。とりあえず、アーリーを倒して。そうすれば、カンナは……」
「私で倒せるかな?」
ヒチリ=キリアがニヤッと笑った。あくまで、仮の生だ。現役でしかも戦闘力最強の赤竜のダールに、どこまで通用するか。まして憑依しているリネットの肉体は、死にかけだ。
「ま、先んじて施設を破壊するという手もあるし……まかせるから」
「承知」
椀へ残った汁を一気に飲んで、ヒチリ=キリアも立つ。そして、大小二体のバグルスを引き連れ、華奢な身体で速く飛ぶホレイサンの飛竜である日空竜を二頭、用意させると一頭に自分が乗り、もう一頭へバグルス二体を乗せて飛び立った。
「さて……と」
ガラネルも村人へいいつけて日空竜を用意させ、それへ飛び乗る。飛竜など、竜騎兵であればどの種属でも基本的に似たような乗竜法で操ることができるので便利だ。
デリナが、真剣なまなざしでそれらを見送った。
6
竜神降誕による大地震と、カンナと竜神の戦いで聖地そのものが崩れ去ったとき、命からがら助かった者は少なかった。カンナの予言を受けたディスケル皇太子はうまく迎賓殿を脱出でき、密かに対岸まで舟でたどり着いて宿場町より遠くまで避難できたので、主従ともども生きていた。山の麓でガラネルたちが仮の紫竜神村を作るのも見えた。村人の中へホレイサン語のできる手のものを紛れこませ、情報を収集する。
一方……。




