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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第8部「神鳴の封神者」
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第3章 5-2 デリナ蘇生

 ヒチリ=キリアも楽しそうだった。

 「まさか、死してより何百年も後に仮初とはいえ再び生を受け、このような体験ができるとは」


 「まず、山を下りましょ。舟でも探して、対岸へ」

 「バスクスはどうするんだ?」

 行きかけたガラネルが止まった。


 「……竜神様にお任せするわ。勝手に手を出したら、御怒りに触れて神罰が下りそう」

 それは、放っておくということだ。


 「そうか。だが、居場所くらいは把握していたほうがよくはないか?」

 「それも、神様は御見通しでしょう。余計な事はしないが吉よ」


 「いや、我々が(・・・)、だよ」

 「…………」

 キョトンとした顔で、ガラネルが振り返る。


 「それもそうね」

 その表情がおかしくて、ヒチリ=キリアがふき出して笑った。ガラネルが顔をあからめ、

 「何がおかしいのよ! 行くわよ! カンナのことは、うまく調べておくから!」


 ガラネルが崩れた山道を岩から岩へひょいひょいと跳び、たちまち崖を下りてゆく。笑いながら、ヒチリ=キリアも後に続いた。



 崖下まで下りると、地震による倒壊と湖水津波、あるいは洪水で流れた聖地と対岸にあった宿場町の漂流物が波打ち際を埋め尽くしていた。互いに小さな町だったが、それでも人口はそれぞれ二千は数えていた。結構な量である。


 その中に、舟が何艘かあって、漂流していたり漂着していたりしていた。ガラネルは目ぼしいものを見つけ、近寄った。


 「動きづらいわね、もう」

 儀式用の装束の袖や裾、飾り紐などを引きちぎってしまう。

 「これにしましょう。あんた、この舟、漕げる?」


 船の後ろに艪がついている。穴があってそれを船尾の棒杭で刺し、取手を持って左右へ降ることによって推進力を得る。ホレイサンを含む竜帝国文化圏で広く使われる船舶用の機構だった。


 「わからんな」

 ところが、二人とも基本的に内陸部の出身なので、舟に縁がない。


 「黒竜なら、南部でこういう舟に乗ったことがあるかもな」

 「そいうや、デリナも生きてるの?」

 「わからんが……あれがそうじゃないのか?」


 ヒチリ=キリアが指をさした先の湖面に、人間がうつ伏せになって浮いていた。黒い儀式用の装束と体格から、デリナであるとすぐに分かった。


 「死んでるんじゃない?」


 ガラネルが天限儀「紫禁星天竜騎銃(しきんせいてんりゅうきじゅう)」を出し、空へ向かって一発、ぶっ放した。もはや、対天限儀器も機能していない。この銃声で死者を操る。


 が、デリナはピクリとも動かなかった。これは逆に、

 「生きてるわ」


 目を丸くしてヒチリ=キリアへ向かった。碧竜の代理として天限儀を強制的に神鍵(しんけん)としたため、その反動で死ぬと考えられてきたが。


 「じっさい、黒竜を翠竜の代理にしたのは初めてでしょうし、デリナが頑丈なのか、実は元から大丈夫だったのか」


 「わからんよ。……おい、こっちに流れてきてないか?」

 「棒を探してちょうだい、寄せるのよ」


 二人して流木や竿を探し、何でもよいから長物を手に取って岩よりなんとかデリナの服へひっかける。


 「よいしょ!」


 水を吸った絹の儀式用装束は重かったが、ダールの力で岸へ寄せ、二人で引き上げた。デリナの顔はいつにもまして真っ白だったが、背中を叩いて水を吐かせ、口移しで息を送りこむと咳きこんで蘇生した。


 「わあ、死ぬかと思った」


 蘇生した早々、目を白黒させ、息も絶え絶えにそう云ったので、これもガラネルとヒチリ=キリアが笑ってしまった。


 「余裕ねえ、デリナ。審神者(さにわ)たちは?」

 「え? さあ……知らないわ」


 デリナがゆっくりと深呼吸した。また咳きこんで水を吐く。

 「あれで生きていたら、逆に大したもんだ。新しい教団の幹部にしてやろう」

 ヒチリ=キリアの言に、ガラネルがあからさまに鼻面をしかめた。

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