表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガリウスの救世者  作者: たぷから
第8部「神鳴の封神者」
635/674

第3章 5-1 ガラネルの策

 もう一度アーリーが右手より灼熱の炎を吹き上げた。炎は渦を巻いて火柱となり、アーリーを包み隠した。人々が驚き、驚怖し、転がって逃げる。炎が天へ立ち上ってしまうと、その場にアーリーの姿はもう無かった。


 人々がぽかんと口を開け、誰も口をきくものはなかった。


 やがて、気を取り直した誰かが追手を出そうとしたが、関所を預かる奉行がそれを止めた。


 「御奉行、なれど……」


 「捨ておけ。我らにどうこうできる相手ではない。それより、村人らの嘆願を早うまとめよ。我らには、そちらのほうが大事であろう」


 白髪まじりの老年の奉行が街道の先をみつめながら、つぶやいた。



 鹿より速くアーリーが走り、やがて日も暮れてきた。アーリーは少し休んでからまた歩き続け、夜通し歩いた。やがて、夜が明けてくる。暁闇が周囲をつつんでいたが、それも東の方角……向かう先より日が昇ってくる。アーリーは休み、カンナを下ろして様子を観た。心なしか、息が細くなってきている。


 「む……」


 急がねば。どのような竜やダールと戦っても、こうはならなかった。速く調整しなくてはならない。神通力によるダメージは、予想を越える何かがあるのだろう。


 水を口移しで飲ませ、アーリーは先を急いだ。この調子では今日じゅうにシャクナの関へ到達するだろう。


 しかし、先日はやりすぎた。連絡が行っていたら、とらえられるやも知れない。騒動になるのはかまわないが、肝腎のカンナの調整が出来ないのでは意味がない。思案のしどころだ。


 と……。


 「アーリーさまあー!!」

 「アーーーリィィーーー!!」

 聴き慣れた声が、上空からした。


 アーリーは顔を明るくし、思わず手を振っていた。

 朝日をうけて、一直線にスーリーが降りてくる。

 


 5


 カンナたちの逃走を確認したストラ竜神は、陽炎と共に一瞬でガラネルの側へ現れた。ガラネルが地面へ平伏し、それを迎える。


 「意外に、疲れた」

 首の後ろを自分で揉みながら。神とも思えぬ言葉を発する。


 「ようも、こんな重い物をつけて(・・・)動き回れるものよ」

 それは、実体化したことを意味している。


 「久しぶりの現世(うつしよ)ゆえ、まだ御慣れになられておらぬかと」

 「うむ。ま、そうなるな。しばし、休む」


 云うが、ガラネルの眼前にはかろうじて少女の似姿と分かる石柱というか、神像というか、石像というか……少女だった姿と同じ背丈ほどの紫水晶(アメジスト)の原石めいた石の塊が佇んでいた。


 ガラネルがその石柱へ向かって丁寧に傅き、長々と紫竜の経と祝詞を唱えた。やがてそれが終わったとたん、


 「神通力の回復に、神代へ一時的にお戻りになられたか」


 ガラネルが見やると、崩れた崖をどうやって上ってきたものか、リネットがいた。しかし、その口調や雰囲気は、リネットではない。


 「あんた、まだいたの」


 正直にガラネルが驚く。とっくに術が切れ、ヒチリ=キリアは幽世(かくしよ)へ戻ったと思っていたが。


 「私もそう思っていたのだが、これ、このとおりだ。術者のおまえに分からぬものが、私に分かろうはずもない」


 「そうねえ……」

 ガラネルは心底信じられないといった顔つきで、リネット……ヒチリ=キリアを見つめた。


 「きっと、まだ何かやることが残っているのかもね。それがなんだかは、分からないけど」

 肩をすくめる。そういう術なのだ。それは術者にもわからない。


 ヒチリ=キリアも黄竜の流儀で、何度も何度も石柱へ礼をし、簡単に祝詞を唱えると、

 「で、これはどうする? ここに祠でも建てるか?」

 「そうねえ……」

 ガラネルは腰へ手をやり、しばし考えた。


 「いつお戻りになられるかもわからないし……しばらくは独自に動きましょう」

 「考えがあるのか?」

 ガラネルがにんまりと笑った。


 「ここはこのままにして、変わらず聖地としましょう。ただし、何人たりとも島には立入禁止。対岸に神殿でも作って、新しい紫竜信仰の本殿とするわ。そして皇都へ使者をやり、ホレイサンの竜人皇に帰依してもらう。そうすればホレイサンは紫竜皇神直轄の神国として、アトギリス=ハーンウルムへ権威を与えられる。そうなったらディスケルなんて前時代の遺物と化すのよ」


 「策士だな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ