第3章 3-3 助太刀
が、それすら、竜神はそよ風がごとく平気な顔で耐える。カンナが初めて、絶望に顔をゆがめる。なんということか。
その、一瞬の気の弛み。気迫の負け。精神の敗北。ガリアの力が弱まる。
バシィ!!
竜神が握り手に力をこめ、黒剣へヒビが入った。
「ガハア!」
カンナの心臓と脳天に、凄まじい痛みが走った。
たまらず、ほぼ自動的に黒剣がありったけの音響で竜神を飛ばし、距離をとる。
それを許す竜神ではない。追撃する。たちまちカンナへ追いつき、紫炎や光線、さらには距離を詰めて恐るべき竜爪を繰り出す。
「こいつ……この……この!!」
「ハハハ、そうだ、もっと抗え! もっとだ! 吾の……神の誘いを断る究極にして空前絶後の愚か者は、もっともっと、もっと抗って死なねば贄とならぬわ!!」
何度、互いにぶつかり合っただろうか。
明らかにカンナの攻撃力が落ちていた。
もう、心臓が爆発しそうだ。ガリアがかすれてくる。眼がにじむ。
「ここまでだ、紛いの神めが!!」
禍々しいまでに喜悦で顔をゆがめ、紫竜神が奥の手を出す。天限儀……ガリアだ!!
竜神がガリアを!!
それは槍かと思ったが、穂先の形状が異なる。紫色の光沢に包まれた謎の金属によるそれは、鎌とも斧ともいえぬ独特の形が柄の先より垂直に突き出ている。まるで巨大なアイスピックに思えた。古代武器の「戈」である。
その戈が紫色に光り輝き、その光に照らされて、周囲へいっせいに影が現れる。全てが、カンナがこれまで殺してきた人間やバグルスや竜たちだった。
初めてサラティスで倒したあのバグルス……パーキャス諸島で殺したムルンベよりの刺客だったトケトケ……さらにストゥーリアで捻りつぶすように倒した盗賊やガリア遣い……あとはもう、北方竜からサラティス周囲の竜……ガラネルの高完成度バグルスまで……それらが怨嗟の声を上げてカンナへ襲いかかった。
「チックショオオオオ!!」
カンナが泣きわめいてそれらを迎え撃つ。死と生を自在に操る紫竜の面目躍如だ。
ガアッ、バアッ、グワッ……!! 次々と消し去ってゆくが、無尽蔵でまさに沸いて出てくる。
その中に竜神自らが戈を奮ってカンナを襲う!
「……!!」
自動的に音響で身を護ったが、その防御力も格段に弱っている。二度、三度と戈先がカンナを襲い、ついに音響壁を突き破ってカンナの胸元へ突き刺さった。
……かに見えた、そのとき。
「む……!!」
竜神が目を見張る。何かの力が戈先からカンナを護っている。グ、グッ……と押し戻すその力は、純粋な「力場」のようだ。
「姉貴ィイイイ!! 助太刀に来たぜええええ!!」
レラの声が響き、逆落としに上空からレラが迫る。その手には、風と重力を操るガリア「風紋黒玻璃重波刀」!
さらにその後ろへ、これも重力を操る木葉状稲妻柄黒曜重長槍を手にしたマイカが、さらに炎色片刃斬竜剣を振りかざすアーリー、一番後ろに多界断金破竹杖を持つショウ=マイラがいた!
最も戦いに向かないと思われるショウ=マイラの細竹の杖だが、実は最も威力がある。なんといっても自在に次元を断ちその中へ入ることが出来る!
ガッ、ガッ、ガッ! と地割れめいて空間断層が走り、カンナをその断層の隙間で隠してしまう。割れた鏡めいて空間へヒビが入って、無数のカンナがその全てに映る。
「なんと……!」
さしもの竜神とて、こうなればそれぞれの次元へいちいち入って本物のカンナを探さなくてはならない。黄竜のダール、それほどの力だ!
「これは……!」
思わず上を見上げた竜神めがけ、すかさずレラの超重力の風が吹きつける。さらにマイカの巨岩をも軽々と操る物質停止の力も神を戒めた。
「……おおっ!」
神も感嘆する。ガリアの力が相乗効果を発している?
そこへアーリーが大上段から斬竜剣!!
大燃焼爆発がおき、湖が赤く染まった。
ブアア……! 炎が風に流れる。なんと、竜神はまるで無傷だった。アーリーの全身全霊の攻撃で。
見ると、今の一行は誰一人としていない。そして、カンナもいなかった。
紫竜皇神が鼻で笑った。




