第3章 3-2 消されていた記憶
カンナ、驚いて思わずまじまじと竜神の顔を見る。よく見ると愛らしい少女だが、その内側になんとも云えぬ殺気と慈愛が感じられる。
「……紛いよ、吾へ帰依せよ」
「えっ!?」
「吾を崇めよ。竜の神を直に崇めるのだ。さすれば、高位の聖職者として吾の代理を務めさせてやろう」
「……!?」
カンナ、なんと応えてよいか分からず、固まってしまった。
「迷っているな。おのれの存在意義に。思い出すがよい。おまえは、ウガマールの田舎から出てきた才能ある秘神官候補であった。紛いとはいえ、ガリアムス・バグルスクスなどにさせられなければ、いまごろどこかの神殿で普通に人々を導いていたはずだ。竜の神々を崇める日々を送っていたはずだ。それは、平穏で平和な日々だったはずだ」
「…………」
なんと、すっかり忘れていた……いや、消されていた記憶が鮮明に蘇る。
ジャングルの奥地などではなく、ウガマール郊外の田舎村でカンナは生まれ育った。内気で物静かな少女だったが、村の神殿ですぐに聖典を読みこなし、司祭の推薦で十のときに奥院宮へ行った。背の大きなクーレ神官長に会った。奥院宮での勉強は厳しかったが、食べ物も豊富で友人も出来、充実した日々だった。
あの、石棺の中で水に漬かるまでは。
「あ……」
カンナ、涙があふれた。人生の全てを狂わせた、あの石棺の部屋。
クーレ神官長の深い声。
「竜は皆殺しにせよ」
カンナの眼が蛍光翡翠に光った。
「そうだ、その禍々しい光は、本来であれば神の光だ。神の力を写し取ったのが人の天限儀だ。ガリアだ。そのガリアを神に対して使うは言語道断。カンナよ、狂人の兵器と堕したその身を恐れ忌み嫌うものはいても、憐れむものはいないのだぞ。吾をのぞいてな」
「憐れむ……」
「デリナと戦った後、サラティスでどのような目にあったか、もう忘れたのか!?」
カンナのあまりに強力すぎる力を目の当たりにしたサラティスの市民は、カンナを救国の英雄として感謝するのではなく、デリナに匹敵する怪物として恐れた。
「さあ……吾を崇め奉るのだ……! この竜世界において、竜の信仰の世において、竜の神を崇めることになんの不思議や躊躇があるや?」
カンナ、眼をつむり、グッと奥歯をかみしめる。
「……竜は……殺す……」
「おろかな」
竜神が含み笑いを堪えきれずに顔をゆがめる。まるで、カンナがそう答えるのを分かっていて、その通りになったのでたまらなく嬉しいように。
「愚かだ、ガリアムス・バグルスクス! 其方はかつてウガマールでもその愚かさで神を滅ぼした! 此度は、そうはいかぬぞ!!」
「うるさあああああい!!」
カンナの音響が爆裂する。
「意思がある神なんて、これからの世に必要なんてあるもんか!!」
「なにを!?」
ぎらり、神の怒りが膨れ上がる。
「神様は黙ってみんなの願いや希望を聴いてればいいんだ!!」
「神へ対するその無礼!!」
竜神が、全身よりその紫炎を発した。
「ふうああ!」
カンナも碧色の球電や稲妻を吹き上げて応戦する。炎とプラズマ流が入り交じり、凄まじい熱と彩りが空中で渦を巻いた。
「こおおいつうう!!」
カンナ、いまだ掴まれている黒剣から直接共鳴を流しこもうとしたが、どういうわけかまったく共鳴しない。それでなくとも、これまでの戦いの中でカンナは懸命に神との共鳴をとらえようとしていた。だが、どうしてもとらえられない。竜神だからなのか!? 本当は実体が無いのだろうか!? 分からない。
答えは、竜神だからである。カンナの共鳴など、同じ共鳴を神通力で発してとっくのとうに対消滅している。相手は神。人知を超えていた。
「イィェヤア!」
バイィイン! カンナが強大なプラズマと音響をまとい、黒剣を通して紫竜神へ叩きこむ。共鳴がだめなら直接攻撃だ。




