第3章 1-7 ショウ=マイラ
マイカはさらに槍を大きく振りかざしてその巨大円盤を持ち上げ、そこから勢いよく岩だらけの地面へ叩きつけた。
バアン!! 振動と音がして、地面へぽっかりとオレンジ色の穴があいた。
「さ、行きましょう」
「……なんだって……!?」
自分とカンナがあれほど苦労して開けた神代への入り口を……こんな槍を回しただけで開けてしまったというのか!? レラはあまりの出来事に茫然として信じられず、アーリーを見上げた。宵闇にその眼を炎色に光らせたアーリーも、マイカを凝視している。
「さ、行きますよ。行かないのなら、私だけで行きますが?」
「ア、アーリー……ホントにあんなので、神代へ行けるのかよ!?」
「あれこそが、真の神鍵の力だ」
アーリーが云うや、前に出たのであわててレラも続く。マイカがにっこりと笑って、そのまま真っ先にオレンジに光る穴へ足から飛びこんだ。アーリーと、レラも続く。
三人が消えると、穴も消えた。
星空だけが、残る。
闇をどこまでも落ちる感覚。しかし、思っていたより早く地面と思わしきものに両足がついた。周囲は漆黒でぬり固められ完全に闇だったが、なぜか互いの姿は見ることができた。
「こっちですよ」
マイカの声がし、長い黒鉄色の髪が遠ざかったので二人もその後ろを歩く。すぐに、ぼんやりと明るい場所についた。部屋のようでもあり、広い空間の一角のようでもあり、判然としない。壁も岩壁のようで、無機質な漆喰壁のようでもあった。家具類は一切ないが、一人の女性が安楽椅子のような物へ座って呑気にねむっていた。黄色地の古いディスケル=スタルの宮廷装束に近い服を着た、同じく黒髪の細面の女性だった。
「マイラ、起きてください」
マイカが声をかける。もう二百五十年もこの神代と現世の狭間で隠れている黄竜のダール・ショウ=マイラだった。ガラネルが復活させたヒチリ=キリアの次代のダールにあたる。
「マイラ……マイマイ、起きなさい」
マイカがその肩を揺すったが、ショウ=マイラは起きなかった。
「マイマイ!」
誰だか知らないがこのやろう、とレラがいらついて、
「起きろ、この!」
その椅子をいきなり蹴りつけた。ガタンと椅子が揺らいでショウ=マイラが跳び起きた。そして驚くマイカやレラ、アーリーを見て、甲高い声をあげる。
「あらま! まあまあまあ、ちょっとやだ、いつ覚醒したのよ!? マイカでしょう!? 久しぶりね、何年ぶりかしら!? それにアーリーも!」
忙しない調子で手を動かしながらまくしたて、黄金に光る瞳をくりくりさせる。
「私は三十年程ぶりですが、貴女は」
アーリーが懐かしげに顔をほころばせた。
「そうねえ、私は、三刻くらいかな? 時間の流れが歪んでいるからね、よくわかんないけど」
そして、ショウ=マイラはレラを見た。
「まあまあまあ、ちょっと、バスクスを二人も造ったのねえ!? すごいじゃない、アーリー、よくやったものね。これなら、カンナが勝てるかもしれないわね!」
「カンナに会いましたか?」
「会ったわよお! ついさっき……あんまり話す時間は無かったけどね」
云うや、ハッと息をのみ、
「ちょっとやだ! あらあら、やだやだやだ! もしかしたら、ちょっとこんなことしてる暇は無いんじゃない!? 行きましょう行きましょう!! 四人で! カンナを助けるのよ! そうだ、あたし、みんなが来るのを待ってたんだわ! 寝ちゃったけど」
有無を云わせず、鈍く黄金に輝く細竹の杖を出す。彼女のガリア「多界断金破竹杖」だ。
「ショウ=マイラ……行って何をするのか、おわかりでしょうな」
アーリーがセカセカと移動の準備を始めるショウ= マイラへ向け、引き締まった顔を向ける。ふと、ショウ= マイラが振り返った。
「もちろん。竜の時代を終わらせるのよ」
さも当然のように、全ダール統括の権限すら有する黄竜のダールが、答えた。
「では、行こう。最後の戦いだ!」
やおら、アーリーが宣言する。マイカ、ショウ=マイラもダールの顔となる。レラは逆に、緊張で眼が泳いだ。
「じゃ、ここに立って。さあさあ、急いで! いい? 私たちはピ=パへ行くわよ。ちょうどカンナたちも行ってるころだと思うけど……さあさあ、立って立って」




