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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第8部「神鳴の封神者」
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第3章 1-6 重力の槍

 (カンナ……)


 アートは窓より世界の反対側へいるだろうカンナを想い、その蒼い空の遠くをみつめた。


 雀が窓際へ止まり、一声、鳴いた。

 晴れていたが、遠くで雷鳴が聴こえた。



 早朝からアテォレ神殿へ船と歩きで向かった三人は、その日の夕刻には到着した。神の山であるアテォレ山へ入ると巨大なカルデラは地殻からめくれあがって、いまだカンナとレラとの戦いの跡が生々しく残っていたが、レラはすましたもので感慨も何もないように鼻を鳴らして周囲を睥睨していた。


 「……神技合(かみわざあわせ)をやったのですか?」

 マイカが半ば放心してぼんやりとつぶやいた。


 「ああ」

 アーリーも出迎えの神官たちへ指示を出しながら生返事をする。


 「紛い物同士で神技合など……まさに神をも恐れぬ大それた行為。それでよく、神代(かみよ)の蓋がひらいたものですね」


 「おまえ、ケンカ売ってんのかよ、いちいちなんなんだよ!」

 「落ち着け、レラ」

 アーリーが嗜めるも、


 「だってよお、アタシだけじゃなくて姉貴も侮辱してるんだぜ!!」

 「昔の人間だ。察してやれ」

 レラが舌を鳴らす。マイカは一切を無視し、スタスタと歩きだした。


 「おい、待て、勝手に行くなよ! ……アーリー!」

 アーリーも気づき、止めても無駄だろうとむしろレラと共にマイカの後をついてゆく。


 ほぼ全壊した闘技場を尻目に地殻変動で岩だらけとなった場所をゆっくりと進み、マイカは分かっているかのように一直線にとある場所を目指した。既に太陽は岩山の向こうへ落ち、急激に暗くなって足元がおぼつかなくなる。もっともアーリーとレラはそのガリアの力で明かりを出すことができるが。


 日没と反対側には、もう星もまたたき始めた。鳥が夕暮れ空をどこかへ飛んでゆく。たった二十日ほど前に、ここで天変地異にも似た激しいガリアのぶつかり合いがあったとは思えない。


 マイカは身軽に岩だらけの場所を飛ぶようにして歩いてゆく。二人が暗がりに見失いそうになるほどその速度は速かった。


 「おい、マイカ、待て!!」

 さすがにアーリーが声を上げた。意外やマイカが素直に振り返って佇んで待つ。

 宵闇に、その瞳が蛍光翡翠に光っている。二人は嫌でもカンナを思い起こした。


 マイカへ追いつき、アーリー、

 「マイカ、何をすればよいのか、分かっているのだろうな」

 「もちろんですよ」

 とぼけた顔をして、平然と云い放つ。

 「黄竜へ会いにゆくときです」


 もう、その右手に黒く半透明で、稲妻めいた線模様の入った長槍が握られている。手槍ではなく、かなり長い。アーリーの身長にも匹敵し、マイカの背丈と比べてもかなり長い。切っ先は木の葉のように膨らみのある独特の形で、さらに牙のような鉤がひとつ根元より飛び出ている。


 これぞ、真に神代の蓋を開く力を持つ碧竜のダールのガリア「木葉状稲妻柄(もくようじょういなずまがら)黒曜重長槍(こくようじゅうちょうそう)」である!


 と、マイカがその長槍を振りかざし、空中に円を描き出した。槍の稲妻模様が光りだし、穂先からは稲妻がほとばしって夜の空中に光の円を描いて闇を切り取った。


 とたん、ヴ、ヴ、ヴ、ヴヴヴ……と聴いたことのある振動音がする。レラがぎょっとして身をすくめた。カンナにくらった共鳴の力をその身体が覚えている。


 しかしマイカのガリアの振動はその円を描く空間に対して行われており、マイカがさらに円を大きく描くと共にその音も太く、かつ重くなった。そして重低音が周囲を舐め、びりびりと大地が揺れ、岩石もガラガラと崩れだしたそのとき、


 「エエイ!!」

 マイカがやおら槍の回転をやめ、さらに大きく振りかざして円の中心を差し貫いた。

 「!?」


 暗くてよく見えなかったが、槍が空間へ突き刺さっている。そのまま、グイッ、とマイカが槍をひねった。すると、なんと光の環で切り取られた円が本当に切り取られ、巨大な円盤めいた黒く(・・)丸い(・・)何か(・・)をマイカは槍で持っていた。眼の錯覚に見え、レラはその光の大きな環と環のあった暗黒とを見比べたが、何がどうなっているのか分からない。


 だが、その黒く丸い何かを、レラは本能で感知した。重力の塊だ。

 「そうれ!!」

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