第2章 6-8 カンナ爆裂!
ガラネルが銃口を天へ向け、祝砲めいてさらに銃声を響かせる。四頭のドラゴンゾンビが、腐った大口をカンナへ向けた。
二頭が種類の違う猛烈な火焔、一頭が極低温ガス、そして一頭が蛋白質を骨まで溶解する超猛毒だ。どれがどれとは、説明は不要だろう。
それぞれ死体なので、正直、威力は生体の半分以下だが、それでも、である。
「うううういいああ!!」
カンナの出力が上がる!
眼が蛍光翡翠に輝き、先ほどの力を出さざるを得ない!
「そうよ、カンナ、少しでもそのバケモノじみた力をすり減らしてちょうだい!」
ガラネルの顔が狂喜に歪んだ。
魂魄のない死体でも、容赦なく共鳴が物体をとらえる。共鳴振動と体波動が、対天限儀器を逆に侵食する勢いだった。
事実、ちょうど岬の先端近くまで来て、崖下の岩礁の岩の祠に隠されている三体目の対天限儀器へ迫っていたマレッティ達、湖をどうやって渡ろうか思案していた矢先、眼前の祠の中より血飛沫が噴出して湖を真っ赤に染めるのを見たのだった。
「なんだ!?」
パオン=ミも驚く。そして、崖の上の尾根筋より轟きわたるカンナの雷鳴を聴いて察した。
「さっすがカンナちゃんねえ!」
こちらも大声を出さないと、至近距離でも聞こえないほどだった。
「もう、お前たちでやってしまうがよい!!」
ミナモに指示され、パオン=ミの火炎符とマレッティの光輪が容赦なく岩の祠へ降り注いだ。
最初はガリア効果が消滅したが、ダメージを受けた身ではすぐに消滅の飽和を超え、岩を切り裂く甲高くも鈍い音と爆裂が交錯し、対天限儀器は攻撃へ耐えられずに切り刻まれ燃えつきて死んだ。
すると、さらにガリアが軽く力強く発現するのを感じた。
「三体も倒せば、ここいら一帯は充分であろう、急ぎ退避せよ!」
ミナモに云われ、一行がうなずく。それでなくとも、カンナの本気に巻きこまれかねぬ。急ぎ、今来た道を戻りだした。
ちょうど、崖の上ではさらに轟音と稲光が発生している。
その稲妻焔が勢いあまって崖下まで降り注ぎ始めたので、五人は命からがら走り始めた。
そこらの立ち木へ次々に落雷し、真っ二つになって倒れ、燃え上がる。あちこちで火災も発生しだしていた。
すぐ頭上を稲妻が走り抜けて眼前の立ち木を直撃し、衝撃でマレッティがふっとばされて転がった。
「カンナちゃん、こっちには手加減しなさいよお!」
マラカに助けられて起き上がり、頭を両手で抱え、再び走り出したマレッティが涙目で叫んだ。
グワッ!
音響が、死竜たちのブレスを強引に押しのける。
深紅の大王火竜のそれはナパーム弾めいた猛烈な爆裂火炎であり、片や同じく深紅と黄金の四足の草王竜のそれは鉄をも融かす火炎放射に近い。二重の炎が螺旋を描きカンナを取り囲むが、炎を押しのけてカンナの衝撃波と雷撃が動きの鈍い竜へ突き刺さる。
二頭が腐った肉体を弾けさせて体勢を崩し、炎も途切れるやすかさず氷河竜が凍りついた身体を揺らして前に出て、液化するまで凍結されたガスを吐きつける。これは普段熱変換で自らの膨大な生命活動エネルギーを得る代わりに溜めこんだ空気を冷却する器官がさらに発達したもので、ガスの正体は空気より作りだした窒素が主成分のほぼ液体窒素である。死体ともなればとうぜんその力は失われるが、いまはガリアの力で復活している。その冷却ガスをもカンナは音響ではじき返し、黒剣を振りかぶって巨大プラズマ球電を叩きつける。これはまともに氷河竜の土手っ腹で炸裂し、ガス器官を大爆発させつつ竜の肉体を四散させた。
腕や首が宙を舞い、地面へ落ちて一部はバグルスを押しつぶした。
最後に冥月竜が霧状の猛毒ガスを吐くが、これもカンナの音響が押しのける。流れたガスが周囲へ近寄っていたバグルスに降りかかり、何体も骨まで融かして行動不能に陥れた。
その猛毒ガスへ引火し、猛毒炎を噴き上げながら大王と草王も再び前に出る。カンナを猛悪的なまでの地獄の業火が襲った。
「まあけるもんかあああ!!」
カンナが目を見開き、眼光も増して稲妻が天へ向かってほとばしった。勢いが余って崖下にまでどんどん落ちて行った。一部はピ=パの市街まで飛んで行って木造家屋を破壊し、延焼を起こした。
連続して音響弾が炎を砕き、プラズマ流が炎を引き裂いて竜を襲う。元来ゾンビの肉体は容易に焼け焦げ、砕かれ、溶融した。さらに巨大衝撃波を前面に集中し、三体の巨大ドラゴンゾンビを完膚なきまでに粉砕した。
「……ハーッ、ハーッ!!」




