第2章 6-6 カンナVSガラネル
黒剣の剣先に大きな球電が出現し、着地の体勢となったカンナが左高八相ぎみに構えて、空中に浮いたままの姿勢でそれを叩きつける! ガラネルのガリアでは防ぎようのない攻撃のはずだった。
だが、ガラネルがするりと後ろに体をかわすや、入れ替わりでバグルスゾンビが間に入る。球電が爆発し、死体の集合体バグルスは再度粉々になった。着地して自らの爆風に硬直しているカンナへ、武術の達人であるガラネルが襲いかかる!
自動的に黒剣が働き、音響の防護壁がカンナを覆う。ガラネルが爆煙を突っ切って走りこみざまに身をひねり、装束の裾や袖をひるがえしての回し蹴りから流れで銃尻の打撃を見舞う。が、音響壁がボッ、ボッと奇妙な音を発しながらすべて防いだ。さらに折り畳まれていた銃剣が出現し、銃剣術でカンナを追い詰める。カンナ、剣技や体術ではとうてい勝ち目がない。ガラネルは球電を発生させる余裕を与えなかった。カンナはガラネルの攻撃を全て音響で防ぎつつ、その音響弾で逆襲する。
そして共鳴だ。
やっと黒剣がガラネルと共鳴をつないだ。
ギイイイィヒイイィィン!!
とんでもない音がガラネルの脳内に響いた。同じバスクスのレラですらひっくり返らせた共鳴である。
「これが、噂の!」
ガラネルの顔が歪む。
「……だけど、耐えられないほどじゃないわねえ!」
ガラネルの蛍光紫の眼光がより強くなった。牙をむき出し、半竜化の力を少しだけ開放する。生体振動で共鳴を打ち消しつつ、カンナとの間合いを詰めた。短時間ならばこのようにカンナの攻撃を防ぐことができる。その戦い方を歴戦のガラネルは瞬時に理解し、そして実践した。レラとはまるでレベルが違う。
「!?」
間合いを見る間に詰められ、焦ったカンナが下がる。が、下がりきれない。カンナ、接近戦は素人以下だ。ガラネルのガリアが銃だからとうかつに近づいたのは大失敗だった。それを、身をもって知る。
「……ッ、ウッ……!」
無様に黒剣を振りかざし、共鳴を先鋭化させてガラネルの防御を突破しようとしたが、ガラネルがその前に銃剣で突きかかった。ガイン! それを剣先で払いのけ、共鳴と電撃を叩きこんだ。が、パッ、とガラネルが体を返して間を外してしまった。カンナは一瞬、目の前からガラネルが消えた錯覚に襲われ、脳がついてゆかなかった。瞬間、真横から強烈な体当たりをくらい、ぶっ飛ばされた。音響防御壁がなかったら、内臓が破裂するほど昏倒して地面へ打ちつけられていたところだが、それは免れる。しかし自分の音響壁に押し出される格好で尾根道から荒野へ転がった。笹薮が視界を覆い、ガラネルの位置が分からなくなる。
共鳴が途切れた。
いや、正確にはかすかにつながっているが、ガラネルにはほとんど効果のないレベルまで下がってしまった。
ガウ、ガウ、ガウン! 銃声がする。さらにバグルスが蘇って、生きているバグルスと死んだバグルスとが有象無象で尾根筋は地獄絵図めいた。
「……こおおんちくしょおお!」
カンナの眼が蛍光翡翠に光る! 黒剣より稲妻が縦横にほとばしってバグルスどもを打ち据えた。グワッ……! 剣を振りかざすたびに衝撃波が弧を描き、バグルスを薙ぎ倒す。
「ハハハ! さすがね、カンナ!」
負けずとガラネルも滅法射ちだ。死んでも死んでもバグルスが起き上がるではないか!
「なんなの、あいつ!」
さすがのカンナも気味が悪くなった。これまでの敵とは明らかに異質な力を持っている。ガリアは、その者の精神より発する。たとえ同じ紫竜のダールでも、ガラネルと同じガリアを持つというわけではない。あれは、やはりガラネル特有の力なのだ。
「この……!!」
カンナ、しかし冷静だった。また、発想が単純だ。そして、それは正しかった。
音には音と、共鳴と音響の具合を本能的に調整する。黒剣が唸りをあげ、空間を音波が歪めた。ガラネルはまた共鳴による直接攻撃と思い、意識を集中して耐えようとする。だが、先ほどよりずっと弱い……というより、先ほどとはまるで異なる連続した極低音が周囲を舐めるのを感じる。
「……!?」
カンナが何をしているのか読めず、やや戸惑った。そのまま、ガリアを撃ち続ける。
「…………」
最初、自分の耳が少し麻痺したと思った。カンナの音響攻撃で耳が遠くなったと。




