表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガリウスの救世者  作者: たぷから
第1部「轟鳴の救世者」
61/674

第3章 7-6 涙

 が、力なくその穂先はカンナの脇の地面へ突き刺さり、デリナはどっとその場へ座り込んだ。黒剣が、独りでにピクリと動いたように見えたが、うつむいて喘ぐデリナに、そのままカンナの右手に納まっていた。


 「ここは引け。デリナ」

 デリナは顔を上げなかった。


 現れたのは、他の竜を含め、大王火竜とバグルスを一人で全て倒したアーリーだった。


 アーリーも元の姿に戻っている。傷だらけだった。真紅の鱗鎧も元の姿へ戻り、かろうじてアーリーの大柄な肉体を覆っていた。


 アーリーはその手に持っていた、デリナの櫃より出してきたであろう、替えの黒いドレスを無造作に全裸のデリナの肩へかけた。


 デリナは顔を上げず、小さくため息をついた。

 「……仲間を倒した我を殺さぬのか。仇討ちはせんのか」


 「いま、カンナを見逃したからな」

 「見逃したわけではない……」


 「貸し借りは無しだ。引け」

 「相変わらず、あ、あ、あ、あまっちょろい……」


 デリナは槍を杖に、全身の力を込め、ガクガクと足を震わせ、立ち上がった。そこで初めて虚空めいた瞳で上目づかいにアーリーを見た。アーリーも、その紅い瞳でしっかとデリナを見返す。アーリーが竜と袂を分かち、竜の支配する地を飛び出してより、三十年余ぶりの再会だった。二人の脳裏と胸中によぎるものは、なんだったのか。それは分からない。ただ、デリナの眼がみるみる潤んだ。


 「アーリー……どうして……」

 たまらずデリナがうつむいた。涙がこぼれおちる。


 「どうして……我を……捨てたのだ……どうして……」

 そこでデリナは聴いたことも無い涙声を発した。


 「どうしてあたしを裏切ったのよお……」

 アーリーは答えない。表情とて微塵も変えず、ただ、


 「デリー……引くのだ」

 とだけ云った。


 「……己、相変わらず……」

 デリナの声が、たちまち憎しみにふるえる。だが、余力はもう無い。


 「フン……」

 デリナは涙をぬぐうと、アーリーへ後ろを向け、その場を離れた。


 歩くデリナへ、背中に輿を設えた大猪竜が、静かにすり寄った。デリナがその竜の顔を撫で、がっくりと気絶する。


 大猪はすぐにデリナを支え、そのまま首へ気絶したデリナをうつ伏せに乗せると、かろうじて生き残った竜たちを引き連れて、サラティスから去ったのだった。


 アーリーは、遠くそれをみつめていた。

 マレッティが、恐る恐る近づいてくる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ