第2章 5-4 防衛バグルス隊の壊滅
パオン=ミはここが正念場と両手から連続して符を出しそれを連ねて、火炎弾の鞭を両手より出したようなかっこうとなる。それらは、ベルトに連なっている手榴弾めいて恐るべき破壊力を秘めていた。
「マレッティさん、我々はいいから、援護に!」
スミナムチが叫ぶが、言語が分からぬ。スミナムチとミナモは三人へ渡したものと同じような三輝綺晶を加工した小箱のような道具を手にしていた。二人は自らマレッティの大光輪の内側から脱出し、驚くマレッティにその箱を小バグルスへ突き出して見せる。
とたん、なんとバグルスがガタガタと痙攣し、壊れた機械めいてその場で痙攣したまま固まってしまったではないか。さらに小箱を近づけると、痙攣が恐るべき勢いでおこり、ひっくり返ってのけ反って、そのまま凍りついたように動かなくなって……バグルスは絶命した。
「!?」
マレッティ、息をのんだ。スミナムチが嬉々としてその装置を次の小バグルスへ突きつける。敵の数が多いと難しい攻撃だが、一体二体では劇的な攻撃力だ。
「なんだかわかんないけど、まかせたわよ!」
マレッティが容赦なく走る。
同時にパオン=ミが二体の重バグルスへ続けざまにチェーンマインと化した火炎弾鞭を叩きつける。一体めが連鎖爆発を起こし、その威力をパオン=ミ自身も避けるため体勢を崩しながらの二撃めは完全に間合いを外してしまった。先端のみがバグルスの分厚い甲羅装甲のついた腕先へ当たったのみで、あとは地面で炸裂した。
しまった! と思うがもう遅い。一目散に逃げて間合いを測る。恐るべきはこの重戦バグルスで、攻撃の失敗した二体めが狂ったように突進してくるのは当然として、直撃を食らわせた一体めすらダメージを追わせつつも完全には肉体を破壊できず、全身より火を噴き上げながらもパオン=ミへ迫る!
次の呪符を用意したが、間に合わない!
そのバグルスの片足を、一撃で光輪が斬り飛ばす!
前のバグルスが豪快に突っ伏した。
そこへ、パオン=ミの火炎弾と光輪が雨あられと降り注ぐ!!
悲鳴も無く、ザグザグに切り刻まれたバグルスの肉体が内側より火がついて爆発し、火柱を上げて粉々となった。
そのころには、火にまみれた二体目にも同じ攻撃が炸裂し、一体めよりも跡形も無く燃えつきる……。
「見事! 見事!」
ミナモの高い声が響いた。見ると、小型バグルスも全滅している。
二人はひとまず息をついた。
スミナムチの開発した対バグルス武器は、三輝綺晶の固有振動を応用したもので、バグルスの生体振動を止めてしまう恐るべきものだった。振動を生み出すエネルギー源は、なんと相手の生体振動であるという……。
「つまりこれはですねえ、相手の殺意や攻撃の意思による生体波動を三輝綺晶により増幅反射させ、相手の振動を揺らぎをもって止めてしまうものです。カンナさんの天限儀の、共鳴の力というのを参考にしました」
スミナムチが得意げに解説するが、誰も聴いていない。
いま、マラカがお堂を崖下へ落とす寸前だったからだ。
さすがにガリア封じ振動波の打ち消し波を放つ機器をもってしても、対天限儀器の至近ではその効果は無く、マラカはガリアが解除された。きっと、物理的な結晶の大きさの問題ではあるのだろうが。
しかしマラカ、いつの間に用意していたものか長いロープの一端を自身の腰へ固く結び付け、もう一端をおあつらえ向きに突き出ている近くの岩へ結んでいる。そのままヤモリめいてお堂の下へ潜りこみ、お堂を支えている丸太梁の一本へ自身がぐるりと回ってロープをひっかけていた。
そして……。
「あっ!」
一同が叫ぶ。マラカは勢いよくその場より崖下へ飛び降り、自らを重りとしてロープを張った。結ばれた丸太の一本が豪快に外れ、その丸太を支えにしている梁も全て外れる。あとはもう、お堂自体が音を立てて崩れながら崖下へ真っ逆さまに落ちた。
「行くぞ!」
ミナモが走り、みな続く。もう、変化を感じている。
「波動とやらが弱まっておる!」
パオン=ミが叫ぶ。符をばらまき、哨戒のために小動物が散るが、先ほどまでよりずっと遠くまで行くことができた。
マラカも再びガリアをまとい、姿を消して崖から余裕で降りていた。
落下地点がよくわからなかったが、木々を抜け、なんとか目星をつけて近づくと、緑色の肉と鱗と棘の塊のような物体が半分歪み、骨のような白いものを内部より突き出させて血を流し、岩の上で脈打っていた。見たこともない不気味な姿に、一同、声も無い。そして、流石に再びガリアが弱まって行くのを感じる。
「こんな……こんなやつ……」




