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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第8部「神鳴の封神者」
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第2章 3-5 奥院宮と天御中

 がっくりとマレッティの肩が落ちるのが分かった。彼女の最大の目標が、達せられたような、意味がなくなったような……かける声も思いつかない。


 「……なにやら秘術で記憶を操作されているのやもしれぬぞ」


 なんとか、慰めにそう耳うちしたが、マレテッィは聴こえていない。畳へ眼をやり、まるで幽体離脱でもしたかのように愕然としていた。


 「それより、お二人は、殿下とはどういった……? 特にその方は、サティラウトウからよくこんな聖地にまで……」


 どう答えようかと思案していると、

 「二人は余の客人ぞ」


 襖が開き、水干姿のミナモが現れる。そして、マレッティのガリアである光輪を見やり、まぶし気に目を細める。


 「これは、すごい天限儀であるな……」

 そのまま、空いている上座へ座る。三人が向き直った。


 「ちょうどよい。こちらは審神者(さにわ)の一人であるが、余の協力者よ。ダールでありながら、竜世界の終焉を担う御一人だ」


 「デリナ様が?」

 マレッティが衝撃の陰の浮いた顔で、斜め前に位置するデリナの大柄な背中を見つめた。


 「天御中(あめのみなか)の審神者ども、聖地を訪れていた黒竜のダールを陥れて監禁し、洗脳せんとしたが、このとおり洗脳は半分成功し、半分は失敗した。デリナは(おも)だった記憶を失い、天限儀を改造するため精神調整が行われたが、竜世界の終焉を望む企みは失っていなかったというわけよ」


 パオン=ミとマレッティが見合う。

 「竜世界の終焉とは、どういうことでしょう……?」

 「この企みに其方らの協力は不可欠。説明してしんぜよう」

 ミナモが安座のまま肘掛へ身を預け、


 「余は狂皇子(くるのみこ)などと渾名されるほど、突飛な考えを持っているようでな。すなわち、このまま聖地が神の声を聴きそれをホレイサンやディスケルへ伝え、その神の声をもって(まつりごと)を行う世は限界であり、早晩、竜に依存する人の世が滅亡すると思うておる。ゆえに、つぶれる前につぶしてしまうのよ」


 「まことに」

 デリナがうなずく。

 パオン=ミとマレッティは、唐突すぎてついてゆけぬ。何を云っているのやら。


 「そこへ赤竜のダール、アーリーを通じてディスケル皇太子の知己を得てな。アーリーは、当初はカンチュルク王宮の命を受け、消えた黄竜のダール、ショウ=マイラや碧竜のダール、マイカを捜していたようだが……どこぞで彼女らと出会ったものか、どうしたのかは知らぬが……世と同じ考えを持つに到り、密かにウガマールの協力を得て事を進め……ついにガリアムス・バグルスクスを造り上げた。さらに、このデリナが……」


 ミナモにうながされ、デリナがパオン=ミとマレッティを振り返りながら話す。


 「私も聖地で調べ物をし、かつてウガマールで竜神を神代(かみよ)へ封じた存在を知り……ウガマールがその者の複製を造っていたのですが、それが紛い物ではなく真物であると確信し……事を起こそうとしていたのですが……片やピ=パでは、千数百年ぶりに竜神降誕の儀を行おうとし……それで……」


 急にデリナの眼が虚ろになり、ふらふらと揺れだした。

 そして、そのままどさりと倒れてしまう。

 「デッ……デリナ様……!!」


 マレッティがあわてて助け起こした。大きなデリナを身体を支え、その懐かしい白い頬へ触れる。


 「デリナ様は……いったい……」


 「ディスケル皇太子殿下がショウ=マイラを通じてアーリーと出会い、カンナカームィの存在を知った。そしてカンナカームィへ全てを託した。カンナカームィは自らの天限儀を自ら遣い、神代の蓋を開くことのできる古代の超人……竜眞人(りゅうのまひと)よ。人造だが、間違いなくその力を有しておる。一方、天御中はそれへ先んじ、碧竜の正式な代理である黒竜のデリナのガリアを鍵として利用し、また紫竜の秘術で死者を一時的に蘇らせ……すなわち黄竜のダールの先代を蘇らせ、それで神代の蓋を開こうとしている。神代の蓋を開く権限のあるショウ=マイラとマイカがそれぞれ自らを封じてしまった以上、ウガマール奥院宮(おくいんのみや)もピ=パ天御中(あめのみなか)もそれへ変わる何かしらの手だてを考え、そしてそれぞれ実行しようとしておるのよ」


 「なに云ってるのかぜんっぜんわかんないけど……」

 マレッティの顔がひきしまる。

 「デリナ様を元へ戻すために……どうすればいいんですか」


 「元へ戻すだけではないぞ。デリナはあくまで代理……神代の蓋を開く天限儀の正統は碧竜にある。黒竜は確かにそれを代わって行うことが出来るが……やれば必ず死ぬ。負担が大きすぎる」


 「な……!?」

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