第3章 7-4 覚醒
「フ……!!」
カンナはフレイラを地面へ横たえた。震えが止まらない。
最後に、マレッティを心配したのだろうか。マレッティと力を合わせてアーリーを助けろ、ということなのか。それとも、なにか意味があるのか。カンナは分からなかった。それどころではなかった。
「……デリナァ……!」
フレイラは、約束通りデリナの動きを止めた。足から針を……いや、地面の針から足を引き抜いたデリナであったが、まだ猛烈な痛みと痺れが残る。これは、ダールといえど完治に時間がかかる。いましかない!
「デリナアアア!!」
「カンナ……カームィイイィ!!」
「ふんぬぁあああああああ!!」
カンナの気合が膨れ上がる。ビシャア!! ゴガラアアア……!! デリナの耳を連続する轟音が襲った。積乱雲の中の雷鳴を間近で聴いたならば、きっとこれほどのとてつもない轟音が鳴り響くのだろう。空気が震え、毒の霧は呆気なく押し流される。もうデリナが何を叫んでも何も聴こえない。カンナの雄叫びも聴こえない。そして、その溢れ出る震電! 眩しくて、デリナは眼を向けていられない。カンナが稲妻の化身となった。プラズマ光が奔流、灼熱が空気を焦がす。デリナはたまらず下がった。
「こ、これほどとは……おのれ……おのれまさか……!!」
デリナも決意した。
「まさか、雷竜かあ、おのれはあァああ!! どおわああシュああ!!」
喉の奥から声を絞り上げ、デリナの肉体が膨れ上がる。ドレスを引き裂き、背中に突起が出現。腕が伸び、足も太く筋肉が膨張する。その白い肌が、漆黒の鱗に覆われてゆく。大きな一本角が前頭部からつき出て、たくましい尾がのたうった。デリナも、真に半竜化した。これがダールの真の姿だ!
「こぉのっ、バァケモノめえええ!!」
稲妻をふりまいてカンナが突進する。
「どっちがああああァ!!」
デリナは毒槍を構えつつ、真っ黒い、毒の炎を吐きつけた。さらに、肩口から管が出現し、火球を連続で吹きつける。それがカンナめがけて飛び、次々に爆発した!
波動音圧の障壁を張り、カンナはそれに耐えた。
「こんのぉおお!!」
お返しに、黒剣を八相ぎみに振りかぶって横殴りに振りつけた。剣から雷が大量の球電となって弧を描き、デリナへ飛んだ。迫る炎とぶつかった瞬間にこれも全て爆発する。炎と雷が相殺され、爆風に顔を明らめ、髪をなびかせながら、デリナとカンナが走り寄って間合いをつめ、黒槍と黒剣で直接激突! どういう効果か、ガリアの力なのか、二人は一気に持ち上げられ、空中高く飛び上がった。
しかし、二人とも自らが宙へ舞ったことすら気づかない。低く垂れ込めた雲へつっこみ、螺旋に雲を巻きこんで、周囲の水蒸気が摩擦で静電気を無尽蔵に発する。集積され膨れ上がった電圧で空気がひき裂かれ、雷鳴が容赦なく鳴り渡る。カンナの独壇場に思えたが、デリナの毒雲と漆黒の炎も雲と共に星雲めいて渦を巻いた。
にらみ合っていた二人が、その気合の充実を引金に、再び剣と槍を交えた!
「ううあああ!!」
デリナが黒炎をまとって槍を突き出し、カンナがアートの障壁のように音響を楯にして炎や毒雲を払いつつ、雷撃をまとった剣を繰り出す。
「えええやああッ!!」
二度、三度と打ち合わされるたびに雲の中で大爆発がおき、高低の轟音が雲を突き抜け、地上にも届いて圧する。竜は怯え、戸惑った。衝撃波がサラティスまで届いて、城壁を揺るがし、家々のガラス窓を割った。神話にある、神々の戦いというのがもし本当にあったのならば、こういうものなのだろう。空を見上げた人々は、誰もがそう思った。
「うううおおおおあ!!」
埒が明かず、デリナが黒槍と一体化し、毒霧をまとい、背中より漆黒の炎を吹きかざして一気にカンナへ突進する。
「ふぃゃああああ!!」
カンナもさらに気合を入れ、ズガッ、ガッ、ズガアッー! 連続して轟音と衝撃波を全身より放った。波のように打ち寄せるデリナの毒炎を、カンナが自らの音で打ち消し弾き飛ばす。デリナの突進は、空中で音圧の壁に押しとどめられた。しかし、デリナの背後から猛烈に炎が吹き上がり、音の壁を裂いてデリナがカンナへ肉薄する。
迫り来るデリナめがけ、カンナが黒剣から轟音と電流を限界までまき散らした。それを全身に受けても、デリナは止まらなかった。その穂先がカンナへ迫る!
カンナはしかし、避けることもなく、黒剣を天高く掲げ、なんと自らへ雷を雨あられと逬らせた!
その猛烈な雷球の塊へデリナはつっこむ!
「アアアアア!」
凄まじい電流の嵐に打ち据えられつつも、デリナが雷をかき分け、カンナへ近づいた。




