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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第8部「神鳴の封神者」
583/674

第2章 1-1 ダールと審神者

 第二章



 1


 ガラネルがリネットへ憑依した先代の黄竜のダール、ヒチリ=キリアと共に紫月竜(しげつりゅう)へ乗って聖地ピ=パへ到着したのは、カンナたちが聖地へ入る三日ほど前のタイミングだった。既にマレッティやパオン=ミはミナモこと狂皇子(くるのみこ)に保護され、療養に入っていた。


 夜も更けた上弦の月の中、ゆったりと二頭の竜が松明の誘導にそって初夏の聖地へ下りる。ウガマールの奥院宮(おくいんのみや)に匹敵する天御中(あめのみなか)と呼ばれる世俗より隔絶された島の反対側の山間の神殿群の一角に大きな竜待機場があって、そこへ誘導される。


 竜を下りると、天御中の黒覆面装束や白覆面装束、藍覆面装束の職員たちが恭しく二人のダールを出迎える。ぴしっとした小袖と裁着袴(たっつけばかま)に頭巾覆面というその姿は黒や白、茶色や藍色の色わけに特に意味はなく、下働きの者たちはその日の気分や洗濯の状況によって好きなようにそれらを着替えていた。中には上下で白黒を着ている者もいる。その場合は、上着と覆面が白で袴が黒という組み合わせが定められていた。藍や茶染めは一色のみで着ることが推奨されていた。


 なんにせよ、歌舞伎の黒子めいたそれらの雑司(ぞうし)達にかしずかれ、二人は月下に竜を下りた。


 「聖地も変わらんな」


 リネットの顔と声で、ヒチリ=キリアが真っ黒く影を作る島の山々と湖の漆黒に冷え冷えと映る月を見て、感慨深げに云う。


 「私も、随分と久しぶりだわあ。三十年ぶりかしら」

 「それを云うなら、私は三百年ぶりほどだ」

 「そうよね」


 ガラネルが苦笑する。二人は雑司に案内され、とある神殿の社務所を訪れた。既に四人の審神者(さにわ)が二人を待っていた。みな雑司と同じような黒づくめの覆面にゆったりとした全身を覆い尽くす独特の装束で、眼のところだけ空いているがそこにもバイザーのようなものを入れて完全に表から見えなくしている者もいる。体形で、男が三人の女が一人と分かる程度だ。ただし、女がもっとも背が高い。


 「ようこそ、両ダール殿」


 男性で年かさの声がし、覆面の下は老爺と思われる一人が代表して前に出る。ダールは聖地へ自由に出入りする特権を持っているが、やはり慣習としていきなりの来訪などは憚られる。今回は、この審神者たちとガラネルが「共謀」するのである。


 「お久しぶり」


 ガラネルはその人物を知っていた。以前に会った際も審神者だった。審神者一族は代々審神者の家系だが、たまに外から能力を持った者を迎えることがある。この中では、この大柄な女性がそうだった。


 「年をとりましたでしょう」


 この長老はガラネルへ皺だらけの目尻をさらに細めて、懐かし気に微笑んだ。それが、覆面の上からでもわかる。


 「三十年ぶりだしね」

 「ガラネル様はお変わりなく」

 「そうでもないわよ」


 ガラネルが皮肉と取って口元をひきつらせた。ダールが三十年やそこらで変わるわけがない。変わったとしても、人間の五、六年ほどだ。その意味では、人間の二十五が三十になったというほどだ。


 「私に比べれば……」

 「まあね」

 「で、そちらが……」

 「ヒチリ=キリアだ」

 「おお……」


 当代の黄竜のダール・ショウ=マイラが自身を封印してしまったため、本来であればショウ=マイラの次か次の次のダールがいてもよさそうだが、長く黄竜は「不在」という異常事態だった。そして、碧竜も。その異常事態を打破する結託を、ピ=パの審神者たちとガラネルは結んだのである!


 四人が二人を案内し、社務所の奥の部屋へ向かう。靴を脱ぐ習慣も忘れていない。奥の部屋では、さらに三人の審神者たちが待っていた。


 「お初にお目にかかる、紫竜殿」


 甲高い高飛車な若者の声がし、ガラネルが不快に目元を歪めたが、すぐに笑顔へ変える。ベールと覆面の隙間から、大きな眼がくろぐろと覗いていた。


 「はじめまして」


 審神者たちは名を名乗らない。ガラネルたちも個人としての名を知らない。彼らはこの姿の時は、あくまで七人の審神者だ。三人の審神者たちは男が二人と、男か女かわからない少年か少女のような体形の者が一人だった。きっと最年少なのだろう。


 正座に慣れない両ダールのために、掘りごたつ式の卓が用意してあった。

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