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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第8部「神鳴の封神者」
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第1章 4-4 可竜月の晦日

 「こちらは、我が国の誇るバグルス技術の権威、アラス=ミレ博士です」

 「はじめまして、殿下」

 博士も直立不動から深く礼をした。皇太子も両袖を合わせ、返礼する。


 「ディスケル=ドゥ=ハウランにござる。お待ちしておりました。さ、こちらへ……」


 皇太子がいざない、三人は闇を歩いた。博士と皇子(みこ)が持っていた灯明もいつしか消え、月明かりも弱い星空の下を躓きもせず滑るように歩いた。やがて、闇の中に庵が現れる。既に明かりが点いていた衛視も誰もいない。入り口を開け、中に入ると質素な卓と机があり、カンナ、スティッキィ、ライバがいた。三人は皇太子が来ると云われて待っていたので、狂皇子(くるのみこ)と博士がいたので驚きかつ戸惑った。

 

 「このお二人が協力者の方々だ。何者かは詮索無用。其方たちが気にすることではない……さ、説明を」


 「では手短に。博士」

 卓につき、博士が図面を出す。聖地を含めた島の数々だった。


 「ピ=パの審神者(さにわ)たちが竜神降誕の儀を行うのは可竜月(かりゅうつき)晦日(みそか)でございます。つまり、今月の三十日。あと十三日後です。これは確かな筋より聴いた話なので、まず間違いないかと」


 「存外近いな。てっきり来月だとばかり」

 皇太子が驚いた表情をうかべた。


 「こちらで想定した計算式が誤っておりました。このたび得た情報により計算しなおしますと、その日に」


 「その情報、よもや欺瞞ではあるまいな?」

 「それは……」

 博士が皇子をちらりと見た。


 「その者を信用するしか。よもや審神者ども、その者が意識を保ちこちらへ通じているとは思うておらぬはず」


 皇子の言葉に皇太子がうなずく。

 「で、場所は」

 「ここでございます」


 博士が指し示したのは、本島の北側の先端のさらに先にポツンとある小島だった。


 「なんだ、ここは?」


 「古くは儀式を行っていた島で、いまでも神秘中の神秘の場所として固く立ち入りを禁じられているところでございます。かつてここで行われていた儀式は、現在は竜古神殿で行われています」


 「余は、てっきりその古神殿で行うものだと」

 「古神殿よりさらに古い、太古の神殿跡があるそうにて」

 「それも、その情報提供者が?」

 「左様にて」


 皇太子は感心してまたうなずいた。

 「あのお……ちょっといいでしょうか?」


 たまりかねたスティッキィがライバを小突きに小突き、ライバがおずおすと声を発した。


 「いかがした」

 「わけがわからないの……ですけども」


 皇太子と皇子が目を合わせる。下々は黙って命だけ聴いておれと顔に書いてあったが、


 「博士、説明を」

 皇子がそう云う。

 「簡潔明瞭にな」


 と付け加えるのを忘れない。確かに、あまり小難しい話は、ライバやスティッキィはまだしもカンナには無理だ。


 「え、と……竜神降誕祭はですね、ただの交信祭と異なり……いまから何千年前とも分からない古代に行われたという秘儀中の秘儀、秘祭中の秘祭でして、神話にある出来事です。本当に竜神が出てくるのかは、いまとなっては誰にもわかりませんが……少なくとも、最後は約二千数百年前にウガマールで行われたとされています」


 「ウガマールで!?」

 反応したのはカンナだった。初耳だ。

 「カンナちゃん、奥院宮(おくいんのみや)で習ってないのお?」

 「うん……」

 カンナが眉をひそめるが、博士、


 「いえ、バスクスさんが知らないのは無理もありません。ウガマールではその後、審神者が倒され竜神は封じられております。歴史が伝わっていないのでしょう。この秘祭は行える日時が厳格に定められていて……それを護らなくては祭も形だけ、絶対に成功しません。その暦の復元から始まった今回の作業ですが、聖地ではようやくその日を割り出したのです。それが、九百九十九年に一度の竜皇節です。ですが、まだ問題が。それは、現代の暦ではなく、古代の暦での話なのです……」


 「で、その竜皇節とやらが現代の暦ではいつなのかを、延々と計算しておったのだ」

 皇太子に云われ、スティッキィとライバがうなずいた。

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