表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガリウスの救世者  作者: たぷから
第1部「轟鳴の救世者」
56/674

第3章 7-1 デリナ再び

 7

 

 カンナとアートが森を抜けると、そこからも遠目にアーリーと大王火竜の激しい戦いが見て取れた。二人とも、アーリーの変貌した姿を目の当たりにして息を飲む。


 「なんなの……アーリー……!?」

 アートは、その拳を握りしめた。


 (やったか……アーリー……その姿を曝すか……)

 「ねえ、アート、アーリーが……」


 「ダールの真の姿だ。あれを見せなくてはならないほど、状況は()されている。デリナめ……総掛かりをしかけているな。あの姿は長続きはしない……アーリーが持たない」


 「アーリーの加勢をしなきゃ!」

 「だめだ、そっちより、デリナが先だ。急ごう、カンナ、デリナを倒す!!」

 「そうなんだ……!?」


 カンナは不安だった。だがいまはアートに従うしか判断できない。判断するほど竜との戦いの経験がない。


 (もどかしい……)


 二人はアーリーと大王を横目に、平原を駆け抜けた。ガリアを出していないからか、駆逐竜もいない。いや、駆逐竜が何頭もアーリーの攻撃にぶっとばされ、火達磨で宙へ舞っているのが見える。大王火竜がアーリーへ迫るも、アーリーが巧みにかわして、周囲へ群がるバグルスや駆逐竜をつぶしていた。


 (すごい……!)

 カンナは恐ろしいまでのアーリーの戦いっぷりに震えが来た。


 「……俺も初めて見る。アーリーがあの姿になるのは、話に聴く限りだが、三十年ぶりで……バスクの組織ができる前のことだ。今のサラティスで、アーリーのあの姿を見たことがあるのは、長老を除いてほとんどいないだろう。ましてバスクは。……街の連中に、あんな姿を見せたくない。思慮の浅いバスクやセチュたちに、どう思われるか」


 アートが走りながら云った。

 「ど、どういうこと!?」


 「ただでさえ何を考えているか分からないうえに、人間離れした強さで、しかも半分が竜。いつまでも歳をとらずにバスクの頂点へ君臨しているアーリーは、実はあまり評判が良くない。あんな姿を見られたら何を噂されるか、知れたもんじゃない。街を追われるかもしれない。それだけは避けたい。サラティスのために!」


 そんなばかなことがあるのか、とカンナは思った。

 「……どうしたらいいの?」

 「とにかく急げ急げ! デリナを倒すんだ、あんたがな!」


 これまでならば、気後れして逃げ出したくなる気持ちが勝っていたが、いまは、ようしやってやる! という思いがふつふつと血液の底から沸き上がった。地を這う地鳴りと、電流と共に。バチッと、カンナから電気がほとばしり、アートは驚くと同時に頼もしく思った。


 (カンナの強い気持ちに、ガリアが応えている……これなら、やれる!)

 アートは自信があった。

 (そのためにカンナは……カンナカームィは生まれた!)


 走りながら遠眼鏡で索敵する。目ざとく、アートは輿を背中へつけたひときわ大きな大猪竜を発見した。


 「あそこだ!」

 アートが走る速度を上げた。カンナも懸命について行く。

 近づくにつれ、漆黒の女性が立っているのが分かった。デリナ!


 「度胸ありやがる! ……何か企んでいるかもな。俺が露払いだ、あんたはまだ下がって、デリナの攻撃をよく観ていろ! 観察が、全てを決める! 頃合いを観て挟撃しろよ!」


 「……分かった!」

 「頼んだぜ!」


 さらに走る速度を上げ、アートが先行する。無敵手甲(むてきてっこう)を装備し、四枚の障壁が展開する。デリナが漆黒の手槍を構えた。


 「うおおおお!!」


 障壁が捻じり畳まれ、両手に装着された。回転し、アートが走り込んで右手からまずそのドリルを飛ばしつけた。デリナは槍を突き出してその軌道を変えた。拳が弾かれて大きく弾道を変え、アートの元へ戻る。アートは走りを止め、迂闊に近寄らなかった。


 「どうしたえ、アート」


 にやにやと笑いつけ、デリナが槍先を揺らして挑発する。アートの後ろのカンナにも眼をむけた。


 「女連れでいくさとは、いい御身分ではないかえ?」

 「ぬかしていろ」


 「逆か、バスクス! 男連れでガリアの戦いにおもむかんとは、いかなる存念か!」


 「ガリアに男も女も関係あるか!!」

 カンナがデリナの誘いに乗って応える前に、アートが再度突進した。

 「我に同じ手は通じぬわえ!!」


 デリナが槍を振りかざす。漆黒の蒸気が噴霧され、煙幕めいてデリナを囲った。これは猛毒のガスだ!


 アートが舌を打って走り込み、風上を探す。

 そこに、バグルスが待ち構えていた!


 銀髪が風へ涼やかになびく少年のような風体だが、その両肘から骨が硬化した刃が突き出ている。


 「やろう!」


 アートは左の拳を楯へ戻し、展開しつつ右手のドリルを回転、走り込んでバグルスと対峙、攻撃と防御を同時にぶちかました。バグルスが尾で地面を叩きつけ、驚異的な跳躍力でアートの頭上をとる。そのまま一瞬で背後をとられたが、バグルスの攻撃は左の拳を解除した楯が自動的に防ぐ。アートはもう、その場を離れていた。振り返ってドリルを飛ばすも、タイミングが合わず、少年バグルスは難なく避けた。毒煙が周囲を漂う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ