第3章 6-3 半竜化
「追ウノデス!!」
デリナの副官であるバグルスの指示で、マレッティをさらに大量の駆逐竜と何頭かの軽騎竜が追った。
残りはアーリーを取り囲む。
「ダールトイエド、数デ押シキリナサイ!」
バグルス軍団と、土竜、それに大鴉、軽騎、大背鰭がいっせいにアーリーへ踊りかかった。アーリーが、とたん、爆発した。
「ナ……!?」
自爆したかと思い、副官バグルスは驚いた。だが、その爆風と炎から出現したのは、真の半竜人と変貌したアーリーだった。
肉体はふたまわりほども大きくなり、鋼鉄めいた筋肉が隆起して空気を震わせた。赤竜の鱗鎧は彼女の変身に従って姿を変え、部分鎧と化した。アーリーの肉体自体も真紅の鱗で覆われ、頭からは角も大小五本、生えている。長い尾があり、背中に翼は無かったが三列の背鰭があった。顔はアーリーのままだったが紅く硬い鱗が表情を変え、眼は血の色をしてぬらぬらと光っており、口元からは牙がのぞいている。髪がざわざわと蠢いた。しかも、その手にはガリア、炎色片刃斬竜剣!
「コレ……ハ!?」
アーリーが吠えるや、口から火が吹き出た。その火を全身にまとって斬竜剣を振りかざす。バグルスはあわてて避けたが土竜竜や軽騎竜は面白いように叩き斬られ、転がって燃え上がった。さすがのバグルスもその迫力と気合に圧され、怯えて後退った。
「貴方タチ! 引カバ、デリナ様ニ殺サレル!! ドウセ死ヌナラ、前ニ出テ死ネェ!!」
真っ先にその副官バグルスめがけ、アーリーが突進する。副官バグルスも雄叫びを上げ、迎え撃った。パワーではかなわぬと観るや、副官バグルスめ、アーリーの袈裟からの炎をまとった斬撃を紙一重でかわしつつ、身を擦り寄せてその懐に入り、アーリーの腹へ爪を突きたてる。しかし、アーリーの鱗に弾き返された。アーリーが唸り声のまま副官へ頭突きをくらわすと、額を割られた副官バグルスは仰向けに地面へ倒れた。アーリーはその腹をおもいきり踏みつけるや、斬竜剣を高々と掲げ、一撃で突き刺した。悲鳴もなく、地面へくし刺しにされた副官バグルスが絶命し、火を吹き上げて燃える。
そこへ、巨大な大王火竜が地面すれすれを飛んできて、強烈なぶちかましをくらわせる!
さしものアーリーもその重量と勢いの差でぶっとび、地面へ転がった。全長百五十キュルトはあろうその怪物が翼の角度を変えて急停止し、周囲へ烈風を吹き巻いて着地するとアーリーへのしかかり、炎を吹きつけた。
アーリーは炎をものともせず、斬竜剣を振りかざして対抗する。この並の竜なら魚のごとく切り刻むガリアすらも、大王火竜という怪物の鱗は容易にその刃を通さない。二度、三度と斬撃を叩きつけるも、大王のぶ厚い皮膚と鱗は弾き返した。
そこへ背後よりバグルスたちが、決死の肉弾をしかける!
炎に巻かれながら、アーリーへしがみつくバグルスども。大王の、城壁をも崩す張手が炸裂、バグルスごとアーリーをその爪で引き裂いた。引き裂かれたのはバグルスのみだったが、アーリーが、二度、地面をなめる。
それを上空から見下ろしたのは、アートの攻撃から逃れてきたデリナだった。
デリナは、アーリーの姿に驚きを隠さない。
「……ばかめ!! みすみす寿命を縮めるようなことを……!」
デリナの表情が悔しさにゆがむ。
「ばか、アーリー……アリナヴィェールチィ」
デリナはつぶやくと、決然と顔を引き締めた。もう下は見ない。デリナを乗せた軽騎竜は旋回し、大王とアーリーの戦いの場より離れたところに下りた。そこにはデリナが乗ってきた大猪竜がまだいる。輿から箱を出し、デリナはアートに破かれたドレスを脱ぎ捨て、代わりのドレスをまとった。近くで見ると刺繍や紋様が異なるが、傍目にはまったく同じ漆黒の絹のドレスだった。乱れた黒髪を梳かし、後ろできつく結んだ。そして、必ず追ってくるであろうアートとカンナを迎え撃つため、準備を始めた。




