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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第7部「帝都の伝達者」
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第3章 6-3 ウガマールの噺

 「聖地は……正確には、ホレイサン=スタルはヘタを打ったわけ。ここが逆に好機。こちらに攻める大義が。一気にバスクス殿に聖地を攻めてもらいたい。そのためには、こちらも協力を惜しまないから」


 「ベウリー様の死を利用する……と」

 「あの子だって、死んでも死にきれないでしょ、このままじゃ」

 「本当に……」


 スティッキィとカンナは、涙を流してデリナのことを託すベウリーの苦しそうな顔を思い出し、胸が痛んだ。ライバは、たまらずうつむいた。


 「具体には、公の席でのバスクス殿の警護に我たちも手を貸すから。この二人が……」

 ルァンとエルシュヴィが会釈をする。


 「それに、皇太子殿下と妃殿下へも話を通しておくから。御二人とも賢明な御方なので、帝国の幕引きを真剣に御考えよ。それはつまり……聖地を裏切るということだけど……御二人は覚悟をきめておられる」


 「それは、つまり」

 スティッキィの顔が厳しくひきしまる。

 「聖地が、御二人を襲う可能性も」


 カンナ以外がおもわず唸った。そこまでするか。いや、追い詰められていたらするだろう。カンナは、不安に顔を曇らせるだけだ。


 「……連中、もう、あからさまに後宮をウロウロできないでしょうから、次にバスクス殿を襲うとしたら、何か大きな儀式のときだと思う。ダオマー節のとき、特に注意して警護はするけど、他の姫たちやとうぜん両殿下もいらっしゃるし……」


 「襲うには一石二鳥と」

 「そういうこと」


 カンナだけではなく、両殿下も護らなくてはならない。となると、スティッキィだけでは到底無理だ。カルンの協力があれば、少なくともそっちは任せられる。


 「わかりました。感謝いたします」


 スティッキィが立ち上がり、両袖を合わせて深々と礼をしたので、あわててカンナとライバも続いた。


 「で? そっちの頼みごとって?」

 再び席へ着いたスティッキィが手短に説明した。カルンと二人は、吃驚して固まった。


 「あなた、本気?」

 「本気です。それしか、私たちが自分で身を護る方法がありません」

 「向こうに有利になる可能性もあるのでは?」

 「大丈夫です。それはありません」

 スティッキィの笑顔に、カルンたちが呆れて見合う。


 「すごい自信だこと……わかった。殿下に口添えをしておくから。でも、前例のないことだから、無理かも……いいえ、たぶんそれは無理よ」


 「それならそれで……」


 スティッキィはカンナを見つめながらうなずく。何か魂胆があるのだと思い、カルンもその件についてそれ以上は云わぬ。


 「じゃ、仕事の話はこれでおしまい!」

 カルンが手をたたく。


 「ここからはなにか『(はなし)』をしましょう! ねえ、スティッキィ、西方の……サティラウトウの噺をしてちょうだい! カンナやライバは、何かないの? 私たちが聴いたことも無いような……風景とか、風習とか!」


 スティッキィとライバ、困ってしまった。なにせ、二人とも暗殺者なうえ……ストゥーリアでの貧乏話や娼館のことを話しても楽しくなさそうだし……。


 必然、カンナへ視線が集まる。

 「え、ええと、じゃ、ウガマールのことでも……」

 「ウガマール!」


 カルン達にとって異世界にも匹敵するウガマールの風景や、サラティスでの竜退治の話は興味津々であった。まして、ウガマール人ですらほとんどの者が見たことも聴いたことも無い奥院宮(おくいんのみや)での日々である。


 カンナはそして、サラティスへ行ってからの竜退治のことも話した。


 「……あと、リーディアリードっていうところからベルガンという港へ行く途中、嵐で遭難して、パーキャス諸島ってところに流れ着いてね……」


 海を知らないカルンたちはその大洋大冒険にも興味を示し、いろいろと質問をしてきた。私的な内容となると、ルァンやエルシュヴィもカルンの友人へ戻り、六人で楽しく女子会を続けた。その夜は、そのまま泊まってしまったほどである。


 笑い声が扉の向こうまで響き、警護の女官たちの顔もほころぶ。

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