第3章 5-6 新たな誓い
しかも、同時に八人もの後宮警護女官が行方不明になっていることも発覚した。出身を偽っていたホレイサン=スタルの間者だったのではないか、ということだった。
「いやはや……」
スティッキィはあきれるやら、恐れ入るやらでむしろ感心した。
息を吹き返したライバは、ベウリーが亡くなったと聞かされ、取調官へすべてを白状した。もっとも、ベウリーの云っていた内容とほとんど同じだった。
「はい……デリナ様のことを出されて……やむなく協力をするふりを……本当です……いざとなれば、私が身代わりとなってカンナさんを護ろうと思い……」
釈放されたライバが部屋へ戻ってきて泣き崩れたので、カンナが慰める前にスティッキィが胸ぐらつかんで立たせると拳で殴り倒した。
「あんたをぶっとばすのはこれで二度目よ、ライバ」
カンナは硬直したまま、目を白黒させるほかはない。
「ごめんなさい……」
「もう二度と、私たちに隠し事はしない。そして、死んでもカンナちゃんについてゆく。この二つを改めて誓って」
ライバは涙をぬぐいながら立ち上がり、
「カンナさん、許してください。最初から相談すればよかった。引け目と遠慮で、けっきょくみんなにご迷惑を。そして誓います。死んでもお供します。どこまでもついてゆきます。神の国だろうと、どこだろうと……!!」
「う、うん……ま、まあ、よろしく」
カンナの引きつった笑みに、ライバはまた涙をこぼしながらカンナを拝みだした。
困ったカンナがスティッキィを見つめるも、スティッキィも笑いながら真似をしてカンナを拝む。
「ちょ、ちょっと、二人とも……なんなの」
すぐに、スティッキィが笑いだした。ライバも、泣きながら笑っている。
カンナだけが、困ったように頬を引きつらせていたが、やがていっしょに笑いだした。
三日月が、真っ赤に染まっている。
6
事態は皇帝の耳にも入り、表では政局が動いたようであるが、後宮には伝わってこない。
ベウリーは「病死」とされ、葬儀はひっそりと行われた。
病死とされたということは、ホレイサン=スタルとの関係を見直さず、これ以上の操作追及はしないことを意味する。
「表向きはね」
後宮を間者に穢され、荒らされた屈辱を晴らすのは後宮の仕事であり表は関係ない。
そして後宮の最高責任者は皇太子ではなく、皇太子妃であった。
あと数日でダオマー節の宴がある。主催は皇太子妃である。ホレイサン=スタルがカンナを排除しようと強硬手段をとってくるというのであれば、その宴の席を狙う可能性が高かった。しかし、大切な宮中行事を中止はしないだろう。
「どうして?」
「表向き、襲撃なんてなかったことにされているのに、中止にする理由がないでしょお?」
カンナはよく分からなかったが、こういう古いしきたりに支配されている場所では、事情がとても面倒くさいというのは分かった。
「儀式や宴会の時に襲われたらどうするんだ?」
ライバが真顔で尋ねる。
「撃退するしかないでしょうね」
「できるのかよ?」
「腕に覚えのある警護官や、あのアトギリス=ハーンウルムの姫のような武術の達人の出番というわけよお」
「武術の達人? あの人たちが?」
「そおよお。それに……」
スティキィが二人へ耳打ちする。
さすがの二人も、驚いた。
「そんなこと、できるのかなあ?」
「やってみなきゃわからないわよお」
「皇太子妃さんに頼むのか?」
「いきなりは無理よお」
「じゃ、どうするんだよ」
「第二夫人に頼みましょ」
カンナとライバが、絶句する。




