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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第7部「帝都の伝達者」
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第3章 1-3 黄昏の後宮

 おっかなびっくり宮殿内をしばらく歩き、三人は、それは豪奢な部屋へ通された。宮殿は山城(やまじろ)なので、時折長い階段や斜面通路があり、まるで三次元迷路だった。ラズィンバーグの街並みに近いか。


 召使が少女を螺鈿も見事な円卓の椅子へ座らせ、茶を用意する。三人も、同じ卓へつくことを許された。嗅ぐだけでとろけそうな香が焚かれている。


 「ここは我の私室ゆえ、気づかい無用。ただし、ここで我を話をしたことは他言無用。そして、明日よりは、我と口をきくことは許されぬ。とくに、そなたと、そなたは」


 少女がカンナとライバを指す。二人は、意味が分からず見合うだけだった。

 「ところで、おたく、どなた?」


 スティッキィが眉をひそめて云い放った。その物云いに面食らったのだろう、少女が目を丸くして息をのみ、そしてふき出して笑い始めた。


 「これはこれは……我は皇太子妃のディスケル=ドゥア=ファンである。そなたたち、名はなんともうす?」


 「わたし……は、スティッキィ」

 「私はライバです」

 「…………」


 カンナがいつまでも黙っていたので、三人が注目する。カンナは、皇太子妃のあまりの美しさと神々しさに見とれていたのだ。


 「あっ……あっ、あの、カカ、カ、カンナです……」

 皇太子妃がにっこりと笑った。


 「そなたが、カンナ……封神と降神の両方の力を持つ竜眞人(りゅうのまひと)……そのどちらの力を遣うのか……見極めさせてもらおうぞ」


 意味が分からず、カンナがライバとスティッキィを見たが、二人とて分かるはずもない。また皇太子妃を見る。


 「ところで、ここからが本題。御三方は、ここでひと月のあいだ、身を隠してもらおうぞ。その間、スティッキィを新たな後宮姫(こうきゅうき)としてむかえ、ライバとカンナはそのお付きとして暮らしてもらう。なぜか。カンナを隠すためぞ」


 「わたしを? ……ですか?」

 皇太子妃がうなずく。

 「なあんでよお」

 「その前に、茶を飲むがよい」


 カンナは用意された小さな茶器を見てハッとした。パーキャス諸島でギロアに飲まされたディスケル=スタルの美しい色と香りの液体だ。ただ、これはその時より数十倍……いや、もしかしたら数百倍は高価であろう器と茶だろうが。


 「いい香り……」


 スティッキィもその器を手に取り、あまりの豊潤さに驚く。花と果物の香りがするが、混ぜ物は一切ない。純粋に発酵の調整のみでこの香りが得られる。


 「落ち着いたか。落ち着いたならば聴け。そなたらがここに来ることは、聖地により予想されておる。なぜなら……分かるな? 彼の地で彼の者に、そう云われたはずだ」


 三人は、懸命に思い出した。なにせ、とにかく急いでいた。というか急かされた。あの、次元の隙間で出会った「とある人物」に。「その人物」については、第八部で語られるだろう。


 「う、うん……なんか、聴いた気がする」

 カンナの声に、皇太子妃が真顔でうなずく。


 「それを伝達する準備にひと月かかる。そういうことだ。それまで待て。そして、聖地の間者より身を隠し、襲われたら撃退せよ」


 「なある……」

 スティッキィが片眉を上げてうなずいた。


 「だけど、後宮なんて、物語に聞くだけだけど何千人も女がいるんでしょう? どいつが間者だなんて、わかりっこないわよねえ」


 「それは二百年も前の話ぞ。いまは、せいぜい召使も含めて五十人ほどよ」

 「へえ……」

 「黄昏の後宮ぞ」

 自嘲的な笑みで、皇太子妃は顔をゆがめ、手ずから茶のお代わりを淹れた。


 「数は少ないが、そのぶん風当たりは強い。側室が二人。その他、側室候補が何人かおる。が、実態はその二人の狭い派閥争いをする遊び場よ。一人はアトギリス=ハーンウルムの姫。一人はカンチュルクの姫だ。ディスケル=スタルの皇帝家はアトギリス=ハーンウルムが最も多く皇后を輩出しておるが、我はそうではない。それが気に食わぬ模様」


 「ちょっとお、そこにストゥーリア人の得体の知れない商家の娘が、側室候補でございと乗りこむのお?」


 スティッキィが美しい蒼い眼を見開いて、驚愕の声を出す。

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