表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガリウスの救世者  作者: たぷから
第1部「轟鳴の救世者」
51/674

第3章 5-2 奇襲

 「アーリー、こいつ、モクスルでしょお? 大丈夫なの!?」

 「大丈夫だ」


 アーリーがそう断言するのなら、マレッティは黙るしかない。見ると、カンナを包む火はさらに半分ほどになっていた。カンナの表情もよく見えた。オレンジ色に包まれて、よく眠っている。あの土気色に小鼻や目元が窪んでいた顔も、元に戻っている。昼まで待たずに、回復するかもしれない。


 「待つ? アーリー」


 「いや、楯が来た以上、彼へカンナをまかせ、出撃する。マレッティ、一気に側面を突くぞ。大王とバグルスが動く」


 「分かるのお?」

 アーリーが走り出した。「もうッ!」と、あわててマレッティが後に続く。


 しかし、動いたという大王火竜とバグルスはサラティスへは向かわず、アーリーとマレッティを迎撃するために動いたのだった。


 アートは肩をすくめて二人を見送り、それからカンナを見下ろした。そのままカンナのそばへ腰掛ける。


 風が吹いて、炎がゆらめいた。

 半刻もしたころか。

 アートが立ち上がり、ガリア・無敵手甲(むてきてっこう)を装備する。


 木々が突如として揺れ、突風が吹き込んできた。アートは障壁を出して、風を遮った。あと少しで完治するカンナを風より護った。火を消させてはならない。


 バギバギと音がして、木立が割れた。空の主戦竜である大鴉竜が、その漆黒の身体を深い緑にまぎれさせ、現れた。足の猛禽爪が木を削り、先端に剣のような針のついた太く長い尾が枝をなぎ払い、大きな翼でカンナとアートを覆う。だが、大鴉は二人を襲おうというのではない。その背中から飛び下りたのは、


 「おやおや、こんなところで寝ていたとは!」

 デリナだ! アートが虹色の壁を四枚、出現させる。

 「己がお守りかえ」


 デリナの白いにやけた顔と、虚空めいた眼がアートをとらえる。既に大鴉竜は邪魔をしないよう、強力に地面を蹴って上空へ飛翔した。デリナが黒槍を構える。


 「己は夕べも、我が陣の端っこでちょろちょろしていたねえ」

 アートは無言だった。見たこともない厳しい表情で、デリナへ集中する。

 「なんとか云ったらどうだえ!!」


 デリナの吐息が鋭く吐き出され、髪をなびかせ、走り込んで一気に槍を突き出す。アートが障壁を展開し、正面から受ける。虹色の光がほとばしり、衝撃でデリナが弾き返された。


 「……生意気な!」


 デリナは力任せに槍を突きつけ、叩きつけた。しかし、アートはびくともしない。完全にカンナを後ろに楯となっている。


 デリナは舌を打って間合いをとり、大上段に手槍を振り回した。それを明後日の方向へ投げつけるように止めるや、槍の先端が外れて飛んだ。細い鎖が伸び、木の枝にひっかかって方向を変え、後ろからアートを襲う。が、アートの楯は自在に宙を舞ってそれを受けた。その隙にデリナが石突きから刺のような剣を出し、そちらでアートへ飛びかかった。が、それも、アートの楯の前には無力だった。


 アートが楯でデリナを押さえつけにかかった。


 デリナは後退った。穂先が独りでに動き、毒蛇じみて楯と楯の隙間からアートを襲う。四枚の楯はまるで翼だった。はためくように動き、槍先を防ぐ。すると剣の出た石突きも外れて鎖が伸び、地を這ってアートの足元をすり抜けるやカンナへ襲いかかったが、それも楯の一枚が飛んで弾いた。


 「ほう……!」


 デリナが感心する。槍の両端が戻る際、鎖が交差しアートの脚を絡めようとしたが、それすらも楯が地面へ突き立って防いだ。光の障壁と鎖がこすれ、ガリアの光の粒が散った。


 デリナは大きく下がった。両端が戻って合体し、再び手槍となった。デリナがうれしそうに口元をゆがめた。


 「己、とてつもないガリア遣いだ。己のようなものが、サラティスにいたとは。カルマ並ではないかえ……」


 「なに並でもかまわないね。俺は俺の仕事をするだけだ」

 「減らず口もカルマ並とは……!」


 デリナが奥歯を食いしばり、槍を下段に構えた。穂先から例の毒靄(どくあい)が滲み出て、槍とデリナを覆ってゆく。


 「これはどうだえ!!」


 靄が凝縮した、まさに竜のような漆黒の毒の翼を広げ、デリナが槍を構え凄まじい速度で真っ正面から突進した。アートは楯を二重にし、それを受けた。


 瞬間、デリナの槍先から、アートの虹色の障壁へじわっと黒い染みが侵食したのを見やるや、アートはガリアを解除し、(たい)を開いてデリナの突進を辛くも避けた。


 デリナは勢い余ってつっこみ、アートと位置が逆転する。

 そこに、カンナがいた。

 「ばかめ!!」


 デリナが横たわるカンナへ槍を向ける。

 「うおああああ!!」


 アートは死に物狂いでデリナへ掴みかかった。まさか素手で襲ってくるとは思わずに、デリナは虚を衝かれた。長い波うつ黒髪を捕まれ、引きずり倒される。


 「……無礼な!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ