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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第7部「帝都の伝達者」
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第2章 1-3 中継都市の一夜

 ガラネルがそこの竜の待機場めがけて高度を下げたので、レストも続く。東域諸国は竜による往き来が発達しており、アトギリス=ハーンウルムも例外ではない。大きな竜の待機場には紫月竜(しげつりゅう)やグルジュワンの烏飛竜(からすひりゅう)、カンチュルクの火草竜(かそうりゅう)、さらには猪突竜(ちょとつりゅう)大背鰭竜(おおせびれりゅう)もたくさんいた。みな、交易のために人や荷物を運ぶ。


 ガラネルが見るからに装飾され、隔絶された貴賓用の待機場に竜を下ろしたので、レストは驚いた。いくらダールとはいえ、この国ではそんなに地位があるのだろうか?


 果たして、ガラネルの姿を認めると職員が転がるように駆けてきた。いや、身なりを見るに幹部職員だ。


 「ガラネル様! お戻りの際は、予めご連絡をいただきませぬと……!」


 ここは王立の竜待機場であり、ここを預かっている立派な髭の初老の男性が息を切らせてガラネルへ云う。場長のバオニィだ。


 「いや、ちょっと急だったから。少し休ませてちょうだい。宮城(きゅうじょう)に連絡を入れておいて。身を清めるから。着替えはいつもの。この二人はあたしの連れだから、相応の対応をしてちょうだい」


 「かしこまりました」


 場長が深く頭を下げ、配下の者へ厳しくいま云われたことを命令した。レストとリネットはアトギリス語が分からないのでただ突っ立っていたが、恭しく係の者がガラネルに続いて二人をいざなったので、ついて行く。


 貴賓室に通され、二人にしてみるとやたらと異国情緒にあふれる歓待をうけた。すなわち、美女が茶や菓子を供し、ガラネルから順番に泉のきれいな水を沸かした湯へ入る。浴場ではレストにも召使である半裸の美女がついたが、レストは恥ずかしがって一人で入ると駄々をごねた。が、警備の関係上、それは許されなかった。


 「大人びて見えて子供だから、許してちょうだいな。向こうじゃ、夏は男女ともそろって水浴びするくせに、風呂は混浴の習慣がないのよ。文化の違い」


 「はあ……」

 ガラネルが肩をすくめ、場長が不思議そうな顔をする。


 「誰か男の召使を用意してあげて。ただし、美少年だからと下手に手を出すと殺されるわよ。強力なガリア遣いなんだから」


 「おまかせくださいまし」


 場長がすぐさま手配をする。男娼の文化もある土地だったので、腰布のみの細面の美青年が浴場で甲斐甲斐しくレストの世話をした。どうしてこういう問題が生じるかといえば、この土地では男娼を除いて男同士はけしていっしょに風呂へ入らないためだ。


 とにかく数日ぶりにさっぱりして、こちらの衣服へ着替え、今夜はここへ泊まる。宴には市長や街の幹部も招待され、高級そうな大絨毯の上へ直接香辛料の効いた竜肉や羊肉、毛長駱駝(けながらくだ)の一種である(アルパカに近い)動物の煮物や焼き物の肉料理がたっぷりと並び、みなで車座に座る。肉は香辛料と共に煮たものが多かった。雑穀より造った蒸留酒が出て、宴が始まった。主食の麦は、蒸しパンのようなものが並ぶ。


 通訳がいないため、リネットとレストは完全に空気だったが、レストはそれなりに珍しい雰囲気を楽しんでいた。ただ、リネットはまったく料理へ手をつけない。顔色も悪く、ただうっすらと微笑みを浮かべ、夢を見るように場を眺めている。


 「リネットさん、少しは食べないと、ケガも治りきりませんよ」

 「ありがとう。でも、ボクはいいんだよ」

 「ここに来るまでも、あまり糧食を食べていませんでしたよ」

 「よく見ているね……」

 「ほら、これはちょっと珍しい匂いですが、食べると美味しいですよ」


 レストが大皿より竜肉の煮こみを木のスプーンで小皿へとって、リネットへ差しだした。竜肉がたいへん滋養があるのを、かれも知っている。


 子供らしい気遣いに、リネットは静かに笑った。しかし、けして料理を口にすることは無かった。


 ずっと、ガラネルが二人を省みずに、場長や市長と話をしていた。


 翌日、アトギリス=ハーンウルムの王族が着る衣装に着替えたガラネルが、リネットとレストにも同じような金糸銀糸で彩られた正絹の服を着させる。どういうことなのか、リネットとレストが見合った。


 「さ、いきましょう」


 再び紫月竜へ乗り、三人は乾燥した春の平原へ飛び立った。上空へ向かうと、もう王都ラドスが行く先に見える。初春の景色である茶色い枯れ草と土の丘陵地帯へ、中心の王宮から整然と通りが整備され、建物の(いらか)がキラキラと光っている様子がよく見える。アトギリスとハーンウルムのそれぞれの旧都は、函谷関もかくやという断崖絶壁の奥地や、青木ヶ原の樹海も顔負けの大樹海の奥深くに忽然と現れる。両国ともその戦争に備えた王都を捨て、二度と両国では争わないという誓いと共にこの中間部に位置する新都を造営した。交易に力を入れるため、城壁も無い。第三国にここが襲われても、それぞれの旧都へ素早く軍を集める算段や訓練も行われている。

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