第1章 4-5 ガリア戦
マレッティは知っている。銀色の短矢を連続して撃つボウガンのガリア遣いを。つい数か月前、トロンバーでいいようにヴェグラーの仲間たちを殺してくれた、あの強力な傭兵を。
「バーララ……だったっけえ!? こんなところで再会とはね……」
マレッティ、唸り声と共にまばゆく輝く光輪を噴出させ、周囲の藪を根こそぎ伐採する。視界と場所を確保するためだ。音を立てて大木も倒れ、たちまち場所が開けた。
パオン=ミは、既に移動している。呪符の小動物がタカンを既に発見している。
「マラカは何処ぞ!」
「ここに!」
声だけする。
「我がタカン殿を救う……周囲を見張れ! 敵は一人ではないぞ!」
「承知!」
小鳥がいっせいに飛び立つ。その場所だ。たどり着くと、あまり離れていない木の枝に、獲物を捕る罠めいた大きな網に雁字搦めになったタカンがぐったりとして吊るされていた。霧がたちこめ、ぼんやりと白昼夢めいてタカンが揺れていた。
「殿下!」
パオン=ミがディシナウ語で叫ぶも、タカンは気絶しているようだった。
だが容易には近づかない。完全にこれも罠だ。
地面を何かが這って迫る感覚がした。
チ、チィとネズミの鳴く声がして、何匹かのネズミがはね飛ばされて空中で呪符へ戻った。パオン=ミがすかさずその手より火炎符を出す。ボンボン、ボン、と火の玉が飛んで地面が燃えあがり、頑丈そうなロープが蛇めいてのたうち回った。これもガリアだ!
(ガリア遣いは何処に……!?)
どうにも分からない。遠くからガリアを遣えるのだろうか? それとも、マラカのように姿や気配を隠すガリア遣いを連れてきているのか!?
「だが、こちらに我ら三人がいることは向こうも予想外のはず!」
勝機はあるとにらんだパオン=ミ、一気に勝負へ出た。両手より大量の呪符を放ち、その全てが火炎となって周囲をぐるぐると回る。火炎の勢いで霧が流れる。その回転がパオン=ミを中心に幾重にも広がって、火炎がぶつかった周辺の木々が次々に爆発して燃えだす。
「そらそら、いつまでも隠れておると、焼け死ぬぞ!」
案の定、大きな木へ張りついて周囲の景色へ溶けこんでいた一人が、火炎符の直撃をくらって燃えあがり、悲鳴をあげて転がった。
とたん、タカンがどさりと地面へ落ちた。網のガリア遣いか?
「殿下!?」
駆け寄ろうとしたパオン=ミの足を、地面を這っていたロープが捕らえる。しっかりと結びつき、強力に引っ張った。パオン=ミは転んで地面へ叩きつけられ、そのまま引きずられる。
「うおお!」
さらに、宙へ浮くほどの力で持ち上げられ、振り回されて木へ叩きつけられた。
だが、呪符を小刀のようにして放ち、すんでのところでロープを切断! 勢い余ってそのまま飛ばされ、地面へ転がり、違う木へしたたか背中を打ちつけた。
そのロープ遣い、パオン=ミへかまわずに身体が燃えあがった仲間へ駆け寄り、叩いてなんとか火を消した。が、消しきれない。パオン=ミの火はガリアの火であり、水や冷気のガリアで消すならいざしらず、叩いた程度ではどうにもならなかった。たちまち、網遣いと思わしき人物は炎の中で動かなくなった。諦め、ロープ遣いはどこかへと去った。最後まで周囲の景色と同化した、透明人間めいた姿だった。やはり、姿を消す効果のあるガリア遣いが他にいるのだろう。
起き上がったパオン=ミがどうにか地面へ横たわるタカンへ近づくと、マラカが現れた。すかさずタカンを護っていたのだ。
「ご無事ですか、パオン=ミ殿」
腰をさすりつつ、パオン=ミが顔をしかめる。
「どうにか……相手は何人かわかったか」
「二人……いや、三人。姿はわかりません。姿を消すガリア遣いは、かなり離れている模様。あと、マレッティ殿のほうに……一人か、二人」
「四、五人か……精鋭のようだが、こちらも手練だったのが幸い」
パオン=ミが快復符をタカンの胸の辺りへ貼ると、ゆっくりとタカンが眼を覚ました。
「おお……其方が助けてくれたか」
大きく息をつき、ディシナウ語で、タカンが云った。
「殿下、お気を付けを。勝手な行動はお慎みいただきます」
「あいすまぬ」
タカンが反省して、目を落とす。
と、マレッティ達のほうでは、次々に木が倒れる音がしている。
「加勢してくる、マラカはタカン先生をお護りせよ」
「承知!」




