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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第7部「帝都の伝達者」
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第1章 4-5 ガリア戦

 マレッティは知っている。銀色の短矢を連続して撃つボウガンのガリア遣いを。つい数か月前、トロンバーでいいようにヴェグラーの仲間たちを殺してくれた、あの強力な傭兵を。


 「バーララ……だったっけえ!? こんなところで再会とはね……」


 マレッティ、唸り声と共にまばゆく輝く光輪を噴出させ、周囲の藪を根こそぎ伐採する。視界と場所を確保するためだ。音を立てて大木も倒れ、たちまち場所が開けた。


 パオン=ミは、既に移動している。呪符の小動物がタカンを既に発見している。

 「マラカは何処ぞ!」

 「ここに!」

 声だけする。


 「我がタカン殿を救う……周囲を見張れ! 敵は一人ではないぞ!」

 「承知!」


 小鳥がいっせいに飛び立つ。その場所だ。たどり着くと、あまり離れていない木の枝に、獲物を捕る罠めいた大きな網に雁字搦(がんじがら)めになったタカンがぐったりとして吊るされていた。霧がたちこめ、ぼんやりと白昼夢めいてタカンが揺れていた。


 「殿下!」

 パオン=ミがディシナウ語で叫ぶも、タカンは気絶しているようだった。

 だが容易には近づかない。完全にこれも罠だ。

 地面を何かが這って迫る感覚がした。


 チ、チィとネズミの鳴く声がして、何匹かのネズミがはね飛ばされて空中で呪符へ戻った。パオン=ミがすかさずその手より火炎符を出す。ボンボン、ボン、と火の玉が飛んで地面が燃えあがり、頑丈そうなロープが蛇めいてのたうち回った。これもガリアだ!


 (ガリア遣いは何処に……!?)


 どうにも分からない。遠くからガリアを遣えるのだろうか? それとも、マラカのように姿や気配を隠すガリア遣いを連れてきているのか!?


 「だが、こちらに我ら三人がいることは向こうも予想外のはず!」


 勝機はあるとにらんだパオン=ミ、一気に勝負へ出た。両手より大量の呪符を放ち、その全てが火炎となって周囲をぐるぐると回る。火炎の勢いで霧が流れる。その回転がパオン=ミを中心に幾重にも広がって、火炎がぶつかった周辺の木々が次々に爆発して燃えだす。


 「そらそら、いつまでも隠れておると、焼け死ぬぞ!」


 案の定、大きな木へ張りついて周囲の景色へ溶けこんでいた一人が、火炎符の直撃をくらって燃えあがり、悲鳴をあげて転がった。


 とたん、タカンがどさりと地面へ落ちた。網のガリア遣いか?

 「殿下!?」


 駆け寄ろうとしたパオン=ミの足を、地面を這っていたロープが捕らえる。しっかりと結びつき、強力に引っ張った。パオン=ミは転んで地面へ叩きつけられ、そのまま引きずられる。


 「うおお!」

 さらに、宙へ浮くほどの力で持ち上げられ、振り回されて木へ叩きつけられた。


 だが、呪符を小刀のようにして放ち、すんでのところでロープを切断! 勢い余ってそのまま飛ばされ、地面へ転がり、違う木へしたたか背中を打ちつけた。


 そのロープ遣い、パオン=ミへかまわずに身体が燃えあがった仲間へ駆け寄り、叩いてなんとか火を消した。が、消しきれない。パオン=ミの火はガリアの火であり、水や冷気のガリアで消すならいざしらず、叩いた程度ではどうにもならなかった。たちまち、網遣いと思わしき人物は炎の中で動かなくなった。諦め、ロープ遣いはどこかへと去った。最後まで周囲の景色と同化した、透明人間めいた姿だった。やはり、姿を消す効果のあるガリア遣いが他にいるのだろう。


 起き上がったパオン=ミがどうにか地面へ横たわるタカンへ近づくと、マラカが現れた。すかさずタカンを護っていたのだ。


 「ご無事ですか、パオン=ミ殿」

 腰をさすりつつ、パオン=ミが顔をしかめる。

 「どうにか……相手は何人かわかったか」


 「二人……いや、三人。姿はわかりません。姿を消すガリア遣いは、かなり離れている模様。あと、マレッティ殿のほうに……一人か、二人」


 「四、五人か……精鋭のようだが、こちらも手練だったのが幸い」

 パオン=ミが快復符をタカンの胸の辺りへ貼ると、ゆっくりとタカンが眼を覚ました。


 「おお……其方が助けてくれたか」

 大きく息をつき、ディシナウ語で、タカンが云った。


 「殿下、お気を付けを。勝手な行動はお慎みいただきます」

 「あいすまぬ」

 タカンが反省して、目を落とす。


 と、マレッティ達のほうでは、次々に木が倒れる音がしている。

 「加勢してくる、マラカはタカン先生をお護りせよ」

 「承知!」

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