第1章 4-2 聖地への道
夕刻、雨も上がって、六人は大きな木の下で休むことにした。ドゥイカとラマナが手早く火を起こす。雨なので、油紙代わりの極薄加工の竜革袋へ細く短く割った薪を入れて持ってきていた。それを組み、鹿の脂をなすり付けてある木屑の塊をセットして、火口で火を入れるとたちまち大きく燃えあがった。あとは、少し湿った木でも難なく燃える。
これからの会話も、パオン=ミとドゥイカの二重の通訳が入るが、便宜上、省く。
「さあ、焼けましたよ」
ラマナが、フローテルらが用意した糧食の北角鹿の干し肉や、特に餞別として用意したワラビ団子を干したものを炙り、みなへ配った。
「貴重な保存食を、相すまぬのう」
「ホレイサン=スタルへ移り住めれば、おつりが来ますよ」
ラマナが笑った。この二人はどのようなガリアを遣うのか、それによっては戦いの仕方も変わってくるが、ガリアの手の内を明かすほどの仲間でもない。そこは、やりがなら、になるだろう。
「行程を確認したいのだが」
パオン=ミの質問にフローテルの二人がうなずき、ものすごく簡易的に描かれた竜皮紙の地図を出した。まるで古代の洞窟壁画めいており、パオン=ミも……いや、二人以外の四人が驚いた。ドゥイカがその地図の上へ小石や小枝を置きながら説明する。
「北回りで、こう、ホレイサン=スタルへ回りこむ。途中で大きな湖があるので、これが目印だ。湖の前に谷があり、そこを越え、湖の北側を迂回するとホレイサン=スタル領内だが、ここらへんの国境は曖昧だ。聖地はここ……らへんのはずだが、秘匿されている。どうなのだ、タカン先生」
「……えっ!?」
タカンが浮かない顔をし、上の空のように地図を眺めていたが、云われてはたと顔を上げる。
「え、ええ、聖地……ね。聖地……は、私も滅多に訪れたことが無くて……あそこは、一般人は入域するのにかなり厳しい審査を受け……そもそも神祇官や皇族しか基本的に入域を許可されない。我々学者が、たまに研究のために足を入れるだけなんだ。聖地にも、人は住んではいるがね……古いホレイサン人や、ディスケル人だよ。滅多に聖地から出てこない。あの中で生活が完結している。不思議な場所だよ……」
「場所は、どこなんですか?」
「場所?」
ラマナに問われ、タカンが見るからに額へ汗を浮かべ、それを布で拭きながら、地図とにらめっこをはじめた。
「ようするに、よく分からないのねえ」
マレッティの醒めきった声に、タカンは面目無いとうつむく。ホレイサン=スタルに入って、ドゥイカ達と別れた後は案内してもらおうと思っていたパオン=ミ達は、この瞬間に作戦の練り直しがきまった。
「に……西のほうだとはされている。霊峰近くの、広大な森林地帯のどこかにあるのは、まちがいないんだが……」
それ以上の情報は、いまは無理だった。ホレイサン=スタルへ入ったならば、いったん彼の領地へ落ち着かせてもらってから、調べるほかない。
「致し方ない。ディスケル=スタルにおいても、聖地ピ=パを訪れのことができるのは極一部のものに限られており、その場所はやはり秘されておる。ホレイサン=スタルではもう少し緩いかと思うたが、そうでもないようだ」
「どおしてよお。ウガマールは同じ聖地でも、別に秘密でもなんでもないじゃなあい」
「ようわからぬ。そういう伝統なのだ」
「伝統……!?」
マレッティが呆れた。
「違うわよお。ぜったい。なにか秘密があるのよお」
「なんにせよ、ホレイサン=スタルの中で聖地はどこですかと尋ねて回るのは不可能なようです。ここはやはり、無事に故国まで守護することと引き換えに、タカン殿になんとか一肌ぬいでもらうしかありますまい」
マラカの言葉に、タカンもうなずき、
「……なんとか、やってみよう。それにはまず……色々と手続きが必要になるかもしれない。それは分かってもらいたい」
「なんにせよ、まずは無事にホレイサン=スタルまでたどり着くのが先決ぞ」
「タカンさん、我々フローテルの移動の許可も、どうか口添えを願いますよ」
「わ、わかっている……」
タカン、困り果て、顔をしかめる。
「だが、私は政治家でも役人でも無い……前にも云ったが、できるかぎりのことはするが、確約はできない」




