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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第1部「轟鳴の救世者」
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第3章 4-3 毒

 黒剣が急速に鳴りをひそめ、稲妻が小さくなる。カンナのただでさえ白い顔が、さらに白くなる。目の下へ豪快に隈ができており、口の端から泡が吹き出ていた。デリナがひょいとその穂先で黒剣を払いのける。カンナはがっくりと膝をついた。はね飛ばされたガリアが、そのまま消え失せた。夜の闇に、デリナだけが浮かぶ。デリナはカンナの前に立ち、その槍をうなだれる胸元へ突きつけた。


 「バスクス……意外と他愛なかったのう」

 楽しげにデリナが声を出して笑った。


 そのデリナの鼻っ面に、何かが当たって破裂した。非常に細かい粒子が飛び散る。凄まじい刺激臭がして、デリナは猛烈な痛みとクシャミに襲われた。眼を抑え、鼻をこする。何者かが目潰しを投げつけた!


 「こっ、小癪な……!!」

 クシャミと涙と鼻水が止まらない。デリナはたまらずよろめいた。


 とたん、カンナの気配が消える。姿も無い。デリナは竜を呼び寄せたが、クシャミでうまく号令を発することができなかった。


 さらに、少し離れた場所から夜空に向かって何かが飛んだ。弓矢か? それが大きな甲高い音を立てて飛ぶ。鏑矢だ。

 それは、撤退の合図だった。

 


 「アーリーどの、こちらです!!」


 カンナを背負い、ガリアである葆光彩五色竜隠帷子(ほこうさいごしきりゅういんかたびら)をマントのように広げて身を隠して一目散に逃げてきたのは、マラカだった。撤退の合図を聞いたアーリーとマレッティも、素早く引いた。アーリーは目ざとくマレッティと合流し、マラカと打ち合わせておいた森の中の某所へ集結する。高台になっており、離れたところに岩石が突き出ている場所があって、竜からは完全に見えないうえに、こちらはその崖から竜どもの陣を見渡せる。


 「マレッティどの、明かりを!」


 マレッティがガリアで草むらへ横たえられたカンナを照らし、ぎょっと息を飲んだ。カンナの白い肌はどす黒く変色し、すでに死んでいると思った。


 「……まさか、毒う!?」

 「迂闊だった。こちらの奇襲を読まれていたとは。デリナのガリアは、猛毒の槍だ」


 「死んでるのお!?」

 マラカがカンナの喉元に手を当てる。


 「まだ、生きています」

 アーリーがうなずいた。


 「さすが、カンナ。ひとつの傷も受けていない。デリナの毒は、かすりでもしたならば即死だ。しかし、毒をかなり吸ったようだ……」


 「ちょっと、どうするの? アーリー……解毒薬なんて……」

 「大丈夫です、マレッティどの。アーリーどのにおまかせを」

 「あんた、だれ!?」


 マレッティは、マラカを見るのは初めてだった。マラカは答えない。マレッティはむっとしてマラカをにらみつけたが、マラカは完全に無視した。


 「二人とも下がっていろ」


 アーリーが雇っている間者だろうことはマレッティにも分かったので、アーリーを立てて、マレッティは押し黙ってアーリーのすることを見ていた。


 アーリーは炎色片刃斬竜剣(えんしょくかたばざんりゅうけん)を右手へ出し、息を整えた。アーリーの呼吸に合わせ、斬竜剣からふいごめいて炎が吹き上がる。


 日が昇ってきた。周囲が薄墨色に明るくなってくる。


 太陽が木々の合間を抜けて森の中にも差し込んできた瞬間、アーリーは斬竜剣を大きく振りかぶって、横たわるカンナめがけて打ち下ろした。


 「アーリー!?」


 ごほぉう! と炎が吹きつけられ、カンナを包んだ。その炎を高く吹きあげ、轟然とカンナが燃え盛る。


 「ちょっと、アーリー!! 何を……」


 アーリーはガリアを消した。カンナは炎の中でしかし、安らかにねむっているように見える。


 「マレッティどの、アーリーどのの炎は、浄火の炎なのです。強力なガリアの毒すらも、燃やし尽くすのです」


 そんな話は初耳だったが、マレッティは驚きを隠して平然とふるまい、意趣返しでマラカの言葉を無視した。マラカが小鼻で笑う。


 「じゃあ、カンナちゃんは助かるってわけねえ。いつまでかかるの?」

 「分からない。炎が消えるまで待たなくては。マラカ」

 「はっ」


 「おそらくデリナは夜明けと共にサラティスへ攻撃を開始するだろう。私はバグルスを含め竜どもを十五ほど倒したが……」


 「あたしも十はやっつけたわあ」

 「それでも、あの軍団だ。一足先に都市へ向かい、竜の情報をフレイラへ伝えてくれ」


 「承知」

 「それから……楯をここに」

 「……承知しました」


 マラカがガリアを出してその身にまとうや、朝日に滲んで消えてしまったので、マレッティはさすがに目を見張った。


 「ねえ、アーリー……あいつ……」

 「バスクの斥候だ。使えるやつだ」

 「ふうん……」


 面白くなさげに、マレッティの口が尖る。


 「さて……カンナの回復を待ち、我々は再度、吶喊する。今度は奇襲ではない。側面攻撃だ。竜は都市攻防戦へ集中するだろうから、そこを狙う」


 「分かったわ」


 マレッティは目を細めて、燃え盛る炎の中で身動きひとつしないカンナを見つめた。

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