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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第7部「帝都の伝達者」
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第1章 3-2 フェーテル

 気心が知れると、フローテルの人々は素朴で単純な印象を受けた。もちろん、その印象をそのまま鵜呑みにする三人ではない。カンナではあるまいし、色々と百戦錬磨のガリア遣いだ……。だが、いまこの時間、楽しいし、食べ物も飲み物もうまいのは確かだった。



 翌日。


 明るくなると、意外と集落が広い。森を切り開いて、粗末で素朴な小屋が建ち並んでいる。その巨大な鹿や毛長竜は、ほとんど放し飼いなのだという。


 井戸は無かったが、井戸に匹敵するほど清浄な泉があちこちにある。洗面も飲み水も、その泉の水で充分すぎるほどだった。じっさい樽に溜めてある泉の水は、ストゥーリアの水道よりきれいだった。


 顔を洗い、冷たさに身震いする。

 「ちょっと飲みすぎちゃったかなあ……」


 マレッティが、はれぼったい顔でつぶやいた。パオン=ミとマラカは、その職務上、どれだけ飲んでも酔わないし、そもそも酔うまで飲まない。


 「さて、仕事の話ぞ。ドゥイカの話を覚えておるか? 報酬は、金ではないという……アーリー様を通じて、ホルポスから金をたっぷりと渡してあるはずだが、あの話しぶりでは受け取っておるまい」


 「受け取っていないフリかも……」


 マラカ、実はこっそりと夜中にガリア「葆光彩五色竜隠帷子(ほこうさいごしきりゅういんかたびら)」で身をおおい、真っ暗な中を手さぐりでそれとなく集落を探っている。ま、特に怪しいところは無かったわけだが。


 パオン=ミはシードリィの助言を受け、ガリアの呪符は放っていなかった。

 「お金じゃないったら、労働奉仕しかないじゃなあい。面倒だわねえ」

 「そう云うな。聖地までの近道を教えてくれるのだからな」


 三人とも、三人だけのときは、相変わらずサティス語で会話していた。ドゥイカに、話の内容を知られたくなかったのだ。


 あてがわれた柴で屋根を葺いた小屋へ戻って休んでいると、ドゥイカと若い女が朝食をもってきた。焼きたての北角鹿(ほっかくじか)の肉と、なにやら茹でてから串にさして焼いた団子のようなものだ。そういえば、昨日の汁にもこの団子が入っていた。澱粉の味がしたので、麦粉団子かと思ったが、味が麦ではなかったので、不思議だった。


 「これってなんなのお?」

 マレッティが串をもって、それへ刺さっている灰色の塊の団子をしげしげどみつめる。


 「フェーテルという草の根から採る粉を団子にしたものです。フェーテルも食べられます。私たちの、重要な食料です」


 若い女が笑顔で云った。その笑顔は、作り笑顔ではなかった。フェーテルとは彼らの言葉であり、ワラビのことだ。つまり、ワラビ粉の団子だ。貴重品である。祭のときしか出ない。


 「これがフェーテルです」


 鹿肉の焼き物に、今年の春に採れたばかりの新鮮なワラビを煮て干しておき、それを戻したものが添えられている。味付けは岩塩だ。


 「ははあ、これは蕨ぞ」


 パオン=ミが気づいたが、ワラビを食べる習慣のないストゥーリアとラズィンバーグ出身の二人は、口にしたとたんにぬるぬるした食感の草に驚いた。味も特にない。それどころかやや苦い。


 マレッティは思わず吐き出そうとしたが、パオン=ミはうまそうに食べているし、給仕係の若い子がにこにこして見ているので、無理をして飲んだ。


 「とってもおいしいわあ」

 ひきつって云ったが、ドゥイカは苦笑した。

 「無理はしないで、残してください」

 「食わぬのなら、我が食うわ」


 パオン=ミが遠慮なく、細長い独特の木のスプーンでワラビをかっこんだ。

 団子と肉は食べられる味だったので、マレッティとマラカはそちらを残さず食べた。


 そのうち、ゲルンが三人の男たちを引き連れて現れた。この小屋にも囲炉裏端があって、みな車座に床へ座る。


 「お三方に、仕事を頼みたい。その代わり、こちらも安全に……ホレイサン=スタルの抜け道まで案内する」


 「仕事の依頼だと?」

 パオン=ミが思わぬ展開に面食らう。頼むのは、こっちなのに。

 「経緯から話したい」


 ゲルンが、火をみつめながら話しだす。その重苦しい表情から、なかなか重大事案なのだと推測された。


 (面倒ごとはいやだなあ)

 マレッティはやはりそう思ったが、さすがに声には出さなかった。

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