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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第7部「帝都の伝達者」
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第1章 1-3 山腹待機

 三人は少しずつ話をして互いの距離を縮めながら、五日を歩いて山脈へ迫った。標高が少しずつ高くなり、気温が下がってくると解け残った雪も増えた。ユーバ湖を離れて山裾まで来るとそこで街道は南下し、山脈沿いに南回りの山脈越えルートへつながる。山脈の向こうは竜国のひとつであるガラン=ク=スタルで、かつては交易路として栄えたが、いまはもうほとんど通るものはいない。


 「そっちは行かないんだ」

 「時間がかかるうえ、ガラン=ク=スタルのど真ん中を通る。得策ではない」

 「ふうん」


 それにしても、パウゲン連山とはまた異なるリュト山脈の威容にマレッティは息をのんだ。標高も連山より遥かに高く、さらにそれが地平線の向こうまでノコギリの刃めいて連なっている。まさにラティラウトウと竜の国の分ける天空の壁だ。これまでは遠くにぼんやりと眺めるだけだったので、ここまで壮大とは想像もしていなかった。パウゲンのような独立峰が偶然に連なったものではなく、峻厳な山脈で、竜ですらその上空を飛ぶのは難儀しそうなほど気流が渦巻いているのが地上からも見てとれた。頂上付近はまだまだ雪が深く残っており、強風で飛ばされて横殴りの吹雪になっている。


 「ちょっとお、ほんとにあんなところを飛んで越えれるわけえ!?」

 「何度も試しておる」

 「あんたのオフダで試したって、意味無いでしょお!」

 「鋭いところを突くではないか。ま、そう云うな。道は他に無い」

 マレッティは素直に眉をひそめた。黙っていてもしょうがないので、はっきり云う。


 「あんた、スティッキィから聴いてるけど、間諜のくせに変なところで行き当たりばったりの悪いクセがあるわよ。万が一失敗したら、どおすんのよお!?」


 図星をズケズケと指揮され、パオン=ミもやや表情を固くする。が、わざとすまして見せ、


 「その為に天候を見極め、スーリーを放って慣らしておる。確かに冬ではここを竜で飛んで越えるなど無理な相談よ。しかし春先はたまに突風が吹くが、ピタリと風の止む日もある。むしろ初夏から夏にかけてのほうが嵐が来て難しい」


 「ほんとなのお!?」

 「本当ぞ!」


 マレッティはマラカを見た。パオン=ミの味方をするかもしれないが、この女もアーリーの信任が厚い間諜だ。自分へずっと隠していたほどに……。情で現状を左右しないと思った。またそうでなくては、この旅は絶対に成功しないだろう。


 「正直、拙者も不安ではありますが……パオン=ミ殿の云っていることは本当です。いま時期は、長くても七日に一度は、急に風が止みます」


 「分かったわあ。その日を待てばいいのね!?」


 マレッティが腕組みし、威圧的に二人をにらみつける。別に立場を上にしようとかそういう意図があるわけではなく、普段から自然にこうなのだ。スティッキィと真逆で、パオン=ミは興味深かった。


 (双子とはいえ、こうも性格が違うものかのう……)

 「きいてるの!?」

 「聴いておる。その通りだ」

 やや辟易しつつ、パオン=ミが答える。


 「で、いつがその日なの!?」

 マレッティの追求は止まない。

 「見たところ、山の上の天気はいいみたいだけど……!?」


 「天気はよいが風は強い。雪が流されておるからの。あれは、雪が降っているのではないぞ。積もった雪が吹き飛ばされておる。晴れてはいるが、山頂付近はよほどの強風よ。天気の良い悪いは関係ないのだ」


 「じゃ、どおすんのよお」

 「ま、数日はここで山を見張る」

 「拙者は、周囲を偵察してきます」

 云うが、マラカが素早くどこかへ行ってしまった。

 「周囲を探るなど、我のガリアで充分なのだが、自分の眼以外は信用せぬという」


 パオン=ミが肩をすくめた。マレッティは息をつき、荷物から竜革の敷物を出すとなるべく乾いている場所を探し、座った。ザクザクの春雪は完全に凍った厳冬期の雪よりむしろ歩きにくく、疲れた。何日か過ごすというのなら、ちょうどよい休息だろう。雪濠を作るほどの雪質ではないので、簡易テントを張ることになる。三人分のテントをパオン=ミが素早く用意した。これも竜革と竜骨を削った骨組みで作られた高級品で、軽くて丈夫、しかも暖かく水をあまり通さない。この世界の優れものだ。


 石を組んで簡易かまどを用意し、燃えそうな木っ端を集めてパオン=ミがガリアの火符で火を入れ、小さな鍋を荷物より出して少し歩いたところの沢より水を汲み、湯を沸かした。

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