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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第6部「轟鳴の滅殺者」
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第3章 6-2 再調整

 近くの瓦礫の下から、血を流したムルンベがなんとか石をどかして現れる。血でふさがった片目を閉じ、笑いが止まらない神官長を見据えた。


 「カンナが、カンナが、カンナが! この世界の新たな神となるのだ!! 崇めよ、カンナカームィを! 竜の神は滅びる!! 竜の時代は完全に終わり、人の時代となるのだ!!」


 「く……狂っている!!」

 ムルンベの顔が引き攣った。


 「ハーッハハ、ハッハハア! そうだ、カンナよ、世界を救世せよ!! ガリウスの救世者よ!! ウワハハハハァ!!」


 のけ反って笑う神官長はしかし、純粋に、世界の神を自らが入れ替える宗教的喜びに徹していた。そこに、自分が新たな宗教世界を支配するなどと云う俗な望みは一切ない。ムルンベにしてみれば、それが狂っている。狂信者だ。


 「ウワッハハハハハ、ハ……!」

 ムルンベは、自分がいま何を見ているのか、にわかに理解できなかった。

 大きな背の神官長が、両腕を開いて笑った姿勢のまま、固まった。

 その胸から、鋭利で長い漆黒の刃物が突き出ている。


 刀が背中より引き抜かれると、神官長は前のめりに崩れ、そのまま瓦礫の隙間に沈んで動かなくなった。


 「ハアーッ、ハアーッ!!」

 荒い息で黒刀の柄を握りしめているのは、レラだった……!!


 がっくりと瓦礫の上で膝をつき、眼も片方が血のりで固まって、その力の全てを遣いつくしたような疲労困憊の様子だが、黒刀を杖にガクガクと立ち上がって叫んだ。


 「チックショオオオオアア!! ムルンベえええええ、どおおこだああああ!!」

 凝視していたムルンベは、あわてて瓦礫の陰へ身を隠した。


 「おおおお前も殺してやるううううううう!! 出ええてこおおいいいいいい!! みいぃんな殺してやるうううあああアア!!」


 だが、ガリアの力は微塵も出現しなかった。重力も、風も、青い稲妻も……。

 「殺して……ころおお……!!」

 声も出ない。息だけが、過呼吸となってレラを戒める。


 アートが何とかレラの元へ近づこうとしたが、足元が悪すぎる。神官戦士たちが止めようとするも、それを振り切る。だが、全く進まないし、無理をして転びかける。その腕をガッシととったのは、


 「……アーリー」


 さすがのアートも驚いて目を見張った。アーリーも疲労の色を隠さない。ずっと密林を踏破してきたのだ。


 「あれが、レラか……」


 話には聞いていたが、初めてレラを見たアーリーが眼を細める。そして、ゆっくりと閉じだした神代(かみよ)の蓋を見やった。


 「アーリー、行け、レラはオレにまかせろ」

 「いや……」


 アーリーは、声も出ずに岩の上で膝をついて苦しげにカヒュウ、カヒュウと喘ぐレラへ向かって歩き出した。跳びながら、大割の岩石と土砂の上を進む。


 「おい、何をする気だ! いいから、カンナの後を追え!」

 「もう間に合わん」


 アートが、神代の蓋を見やる。確かに、急速にその裂け目が閉じだす。この距離であれば、走っても無駄だろう。


 だからって、どうするというのか!?

 「アーリー! おい、このやろう!」

 アートも続こうとして、杖が滑って転んでしまった。お付きがいっせいに寄ってきて助ける。


 「アーリー!」

 アーリーはたちまち、レラの元へ到達した。

 レラが、その気配に気づき、アーリーを見上げた。蒼天の眼と、深紅の眼が交差する。


 「……お……まえ……も……りゅ……う……か……」

 かすれ声で、レラが云った。その黒刀をブルブルと持ち上げ、アーリーへ突きつける。

 「そうだ」


 アーリーは優しく、そして強く、火の気をこめた掌打でレラの首筋を打った。レラは一撃で深く気を失い、ガリアも消えた。アーリーは倒れ伏したレラを抱き上げると、アートの元へ戻った。


 アートの表情は、怒りを越えて憎しみに歪んでいる。

 「……おい、レラをどうする気だ」

 アーリーが、決然として答える。


 「再調整する」

 「再調整はオレがする。レラを返せ」

 「いまさら親面(おやづら)か。お前のものではあるまい」

 「アーリー!!」

 アートが、お付きの神官戦士の肩へ手をやり、右手の杖をアーリーへつきつけた。


 「お前の考えなどお見通しだぞ、このカンチュルクの策士め! レラならば、また神代の蓋を開けることができるかもしれない! いや、レラしか再び開けることはかなわないだろう! 手なずけたレラといっしょに、聖地へ向かうか!?」

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