第3章 6-1 哄笑
バルビィの狙撃!
バユゥーン! 銃声すら歪んで伝わる。バルビィは重力に曲げられて大きく弾道が反れるのを見越し、かなり見当違いの方角へ狙いを定めた。果たして、まるでブーメランだ。ガリアの弾はそもそも軌道をある程度コントロール出来るとしても、通常ではありえない角度で弾丸はカーブし、的確に天秤の姿でレラの頭上へ浮かぶガリア「風紋黒玻璃重波刀」へ命中する!!
ガイン!! と音がして、天秤が揺れた。ガタン、ガタン、ガタンと衝撃で天秤の秤が上下する。とたん、力の拮抗が崩れ、黒い球が真円ではなくブヨブヨと歪みだした。
好機!!
「うっわああああああああ!」
カンナが叫び、ガリアの力をここぞと全開にする。稲妻が轟き、凶悪的な音響が周囲を舐めた。空間と大地が大揺れに揺れ、地割れが盛り上がり、バルビィを呑みこんだ。
共鳴と共鳴が混じり合い、重なって、一部は反発する。風紋黒玻璃重波刀がガタガタと揺れて、その力を保てなくなる。超重力の球が栗のイガめいて突起を出しはじめる。
そこへカンナが大音響を推進力にし、大吶喊をかけた。
槍めいた巨大音叉を構えたまま、一直線にレラへ……いや、グニャグニャに歪む重力塊めがけつっこむ。
共鳴振動が重力波を切り裂いて、超重力ですら空間ごときれいに裂けた。まるで、すさまじく切れる包丁でスーッと見事に下ろした魚だった。
その音叉の先が、音も無く重力塊へ突き刺さる!!
ギュウぅぅ……
全てが……いや、すべての力が、収縮した。
空中へ浮かんでいた無数の瓦礫が、雨のように地上へ降る。
瞬間……。
バアン!! 弾けて、天秤の姿だった黒刀が、刀の姿へ戻った。
そして、レラが……いや、ガリアである黒刀が集めていた膨大な重力が、一気に逆転して大雪崩に大放出された。
アテォレ神殿が……アテォレ山が、真っ二つに砕けた。
6
そこにあったのは巨大な裂け目であり、巨大な入り口であり、巨大な建物であり、巨大な門だった。
いや、門というには異形すぎた。
ただのマグマの煮え立った火口にも見えるし、膨大な量の精緻な彫刻が執拗に施された風呂にも見える。屹立した岩山が折り重なっても見えるし、無垢の白木が鳥居めいて重なっているだけにも見える。満天の星空が渦を巻いて星雲を作っているようにも見え、真っ赤な夕焼けの地平にも見えた。じっさい、空間が歪んでいるのだ。
カンナは、ただ一人でその前に立っていた。
静寂だ。
一切の物音がしない。
その裂け目の奥に何があるのか分からない。しかし、行かなくてはならないという妙な使命感だけが、カンナを支配している。
カンナは、吸いこまれるようにしてその中へ消えた。
「……う、う……」
土砂と石を押しのけ、ウォラが顔を出す。ほぼ地面へ埋まっていた。そして、裂け目を見て絶叫した。
「……神代の、神代の蓋が開いたぞ!!」
足元の岩石の隙間より、土埃まみれのスティッキィとライバも現れる。何が何だか、という顔だ。
「お前たち、カンナを追え! 説明はしない! ただ、追うのだ!」
「なんですってえ!?」
スティッキィが云うが、ライバはもうスティッキィの腕をつかみ、瞬間移動していた。二回ほど移動すると、つい先ほどカンナの立っていたあたりに到達する。そして、そのままカンナの消えた巨大な裂け目へ向かって飛んだ。
「そうだ……行け……勝ったのは……カンナだ……!」
ウォラは、感慨深げに立ちつくした。
完全に崩壊した闘技場の跡地にあって、クーレ神官長も瓦礫の上に立ち、感慨深げだった。いや、その表情はもはや恍惚だ。薄汚れ、ところどころ破れた最高級の法衣のまま両手を大きく広げ、ブルブルと震えた。
「……カンナよ……我が最高の憑代よ……行ったか……ついに!」
そして、見たこともない笑顔で眼を見開き、みな聴いたことも無いほどに呵呵大笑した。
「そうだ、神を封じよ! 全ての神を! 世界宗教革命はここに成れり!!」
その哄笑は、静寂の中でこだました。ウォラが振り返り、アートや神官戦士たちも神官長を半ば茫然と見やった。




