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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第6部「轟鳴の滅殺者」
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第3章 5-4 闇の奥からの視線

 だが、カンナの見たものは、その全てが炸裂した光景ではなかった。


 その全てが、渦を巻きながら一条の極細の線となって、レラの頭上の一点に吸われて消えてしまった光景だった。


 「……え?」

 カンナも我へ返る。


 地上では、遠く離れた場所よりそれを見上げていたアートが杖を振り上げ、地面を打ちつけた。


 「あの力が!」

 補助者の神官戦士たちが、何事かと問う。


 「いまのレラでは到底制御しきれない、あのガリアの最終奥義だ! ガリアが、レラを逆支配(・・・)しているぞ!!」


 「ど……」

 一人の若い戦士が、ゴクリと喉を鳴らす。

 「どうなるのです!?」

 アートは顔の半分を引き攣らせて、笑みを浮かべた。


 「少なくともウガマール全域は、塵と消える」

 若者は、まったく実感がわかず、ただ、

 「へえ……」

 とだけ云った。


 (やはり、早すぎた……)

 今更どうしようもない慙愧(ざんき)におそわれる。本当に、今更だ。


 (こうなったら、カンナへ希望を託すしかない……レラを……ウガマールを……救ってくれ……)


 アートは、自分の身勝手さと無力に、死にたくなった。

 (カンナよ……)

 祈るほかはない。神へ祈るように!!

 (助け給え……!!)

 


 レラの頭上、天秤の姿となったガリア「風紋黒玻璃重波刀(ふうもんくろはりじゅうはとう)」の真下に出現した空間に空いた漆黒の「穴」のように見える真っ黒い胡桃ほどの大きさの点は、周囲を漂う土埃から煙から、晴天の光、大地からは続々と土砂や木々までも吸いこみ始めた。カンナは何度か雷撃や球電を放ったが、レラへ到達する前に紙縒(こよ)りめいてねじれ、細い線となって穴に入ってしまう。遠くは半壊してかけている闘技場すら巨大な石材が宙へ浮いてレラへ向かって飛び、粉々に砕け、渦をまいて黒点へ吸われてゆく。


 カンナも、アートも、そして遠くから岩陰より見守るウォラやスティッキィ、ライバも、誰もあの黒い点が何なのか分かろうはずもない。


 だが、我々は分かる。


 あの超重力の塊は、いわゆるブラックホールであった。だが、正確には疑似ブラックホールというべきだろう。こんな規模(・・・・・)で済んでいるのだから。


 「それにしたって……」


 カンナは嫌な予感がした。あの力を制御するはずのレラは、どう見ても明らかに気絶している。これがこのまま暴走し、あの黒い点がどんどん大きなったらどうなるのか?


 と、ガクン、と宙に浮いていたカンナも引っ張られた。

 「う、わっ……!」


 黒剣を向け、なんとかレラと共鳴しようとしたが、肝心のレラが気絶している。ガリアと共鳴なんかできるのだろうか?


 ズッ、ズッとカンナが少しずつレラへ吸い寄せられ始めた。まずい。一定の距離まで近づいたら、(たが)が外れて一気に吸われてしまうだろう。人間が……人間があの穴に吸いこまれると、どうなってしまうのか? あの岩や土砂のように、その前に砕け散って粉々になり、渦を巻いて線となるのだろうか。


 (なんとか……なんとかしなくちゃ……!!)


 周囲より引っ張られるさまざまな物の速度が心なしか増している。見やると、胡桃大の穴が握りこぶしほどに成長していた。正確には穴ではなく、光すらも逃がさぬ超重力の塊だが、周囲の空間すら歪めるその威力に虚空へ空いた底なしの穴にしか見えない。


 カンナ、ガリアの力でその場に踏ん張ったが、所詮は音の力だ。どうにもならず、ずるずると前に引っ張られる。


 「う、う、う……」

 さしものカンナも、純粋に恐怖する。得体の知れない力と、その圧倒的な威力に。


 その時、カンナは、見た。

 間違いなく、暗黒の塊の奥より、何者かの巨大な眼玉がこちら(・・・)をうかがっているのを。


 「……!!」

 カンナの恐怖が限界を突破した、刹那!


 カンナの右手の黒剣が、その姿を変えた。ギュウッ、と伸び、剣先が二つに割れ、細く尖る。こちらも、本来の姿であろう、槍のように巨大な音叉となった。

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