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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第1部「轟鳴の救世者」
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第3章 4-1 夜間突撃

 4


 雲が多かったが、月が出た。風はなかった。夜になっても蒸し暑い。独特の竜の臭いが集合し、夜の闇に充満している。


 三人はアーリーを先頭に深夜半の荒野を進んだ。この時期、朝までは短い。一気につっこんで、一気に勝負を決めなくてはならない。


 「アーリー、どこに敵の大将がいるか、分かってるのお?」

 まだ距離はあるが、思わずマレッティの声も囁きとなった。


 「おそらく陣の中央だ。近くになったら確認する。ぎりぎりまでガリアは出すな。駆逐竜に発見される」


 「分かってるわよお。突撃命令はアーリーが出してね。いいこと、カンナちゃん、打ち合わせの通りに、ね」


 はい、と云おうとしてカンナは声が出なかった。いざこうして出撃すると、やはり目が回るほど鼓動が激しい。


 竜の軍団といっても、人間の兵士のそれではない。竜たちは半ルットほどの範囲で、めいめい、好きなところで立ったまま休んだり、寝そべったりしている。中には起きていてうろうろしているものも多い。三人はひそやかにそのあいまを駆け抜けた。縄張りへの侵入者へ気づいた竜の何頭かが、次第に鳴きだして騒ぐ。騒ぎが陣へ広まって行く。


 「そろそろ、頃合いじゃなあい!?」

 「よし、いけ!!」

 「がってえん!!」


 マレッティが全速力で駆けだし、アーリーとカンナから離れた。しばらく行くと、まばゆいばかりに光がほとばしる。円舞光輪剣(えんぶこうりんけん)


 「初手から全力だ!」


 アーリーがその光を手で遮りながら叫んだ。マレッティの身体を幾重にも光の輪が取り囲み、激しく回転する。愚かな大猪が角を振りかざしてつっこんだが、顔面から輪切りとなって横倒しに倒れた。見た目は地味な、なんの変哲もない刺突剣が光の輪をまとって、マレッティがそれを振り回すたびに周囲にばらまかれる。それは恐るべき刃となって、次々に襲い来る竜を切り刻んだ。ガリアに反応して、無闇に突進してくる駆逐竜などは、かっこうの獲物だった。血をぶちまけて膾切りとなり、草原へ転がった。二足歩行である大背鰭竜の長い脚を一撃で切断し、竜がつんのめって倒れる。それを跳び越えて、マレッティは走った。


 「今のうちだ!」


 走りながら、アーリーが背中に輿の設えられたひときわ大きな猪竜を発見した。あそこか、あの周辺にデリナがいる。


 「行くぞ、カンナ!」


 カンナの返事も待たずに、アーリーが走る速度を上げる。輿にデリナがいるとは思えなかったが、その猪竜ごと真っ二つにせんと、アーリーの手に炎色片刃斬竜剣(えんしょくかたばざんりゅうけん)が出現した。それが炎を吹き上げ、振りかざされる。


 唸りを上げて斬竜剣が振り下ろされたが、鋼鉄にでもぶち当たったかのごとき感触に弾かれ、アーリーは威力と衝撃がまともに跳ね返ってきて後ろに下がった。


 「なに……!!」


 見ると、両腕に楯のような大きく堅い甲羅を装備した大柄なバグルスが、その両腕を合わせて防御し、アーリーの前に立ちはだかっていた。それは、アーリーの斬撃を遮断するほどの防御力だった。


 斬竜剣の炎をかざして見やると、アーリーの周囲にずらりと様々な大きさ、特徴のバグルスが集合している。全てがそれぞれに独特の攻撃や防御に特化している。オレンジのゆらめく光を浴びて、その白い肌が染まっていた。紅い眼、青白い眼、さらには黄色い眼が光を反射し、にやにやと口元をゆがめて牙をのぞかせている。いっせいに不気味な声で笑いだし、それが輪唱して不思議な音を響かせた。


 「しまった……!」

 思ったが、遅かった。いっせいにアーリーへ飛びかかる。

 「ぬぅああ!!」


 流石、アーリー、一体を迎撃で輪切りから火達磨にしたが、背中へ飛びつかれ、また脚や腕に絡みつかれる。人間ではない、ダールであるアーリーの皮膚はバグルスの爪も牙も容易に通さなかったが、たまったものではないのには変わりない。アーリーは斬竜剣を振り回し、まとわりつくバグルスを引き剥がしては投げ、また走り込んでは剣を振り回し、蹴り飛ばしてその場から離れてしまった。アーリーのガリアを感じた駆逐竜もぞろぞろと続く。


 「あ……あっ……」

 カンナが焦り、その後を追おうとする。

 「己が相手は我だ」



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