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ガリウスの救世者  作者: たぷから
第6部「轟鳴の滅殺者」
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第3章 3-7 乾いた返り血

 だが、それもだめだ。


 レラの背中に突き刺さったかに見えた回転投げナイフは見えない力に阻まれ、空中で止まっている。


 「ウグウッ!」


 背のすらりと高く、手足も長い美貌の、黒髪に紅褐色肌のガリア遣いは真っ白な歯を恐怖と動揺に噛みしめた。レラの眼が青白く輝き、引き攣りきった笑みが重力波のうねる音に乗って輝いて見えた。


 「こぉの悪神があ!!」


 レラめがけて、蛮刀の女戦士が突進した。バリバリバリ!! 蒼い稲妻が戦士を打ち据え、続いて風の塊が恐るべき風圧をかける。戦士は目玉も飛び出し、身体を捩じられながら血をふりまいて、空中を翻筋斗(もんどり)を打ちながら転がってどこかへ飛んで行ってしまった。


 ガタガタと歯を鳴らし、残った回転ナイフのガリア遣いが震えてレラを凝視する。もう戦意を喪失し、心が折れ、ガリアは消えてしまっていた。レラは普通に歩いてそのものへ近づくと、背の高いそのガリア遣いを見上げた。小顔で、額を大きく刈って後ろに長く編んだ髪を垂らす伝統の髪型をし、紅と白の戦士の化粧をしている。


 レラめ、無言でその長く草食獣めいて細い脛を、両手持ちの水平斬りで両足ごと払った。

 「うああ……!!」


 なんとか悲鳴を絞り出して、膝から崩れる。レラは長く編んだ女の髪をつかみ、顔を上げた。元ガリア遣いの女は両手を地面へつき、恐怖と苦痛で、目も開けていられなかった。


 「……つまんないよ」


 レラ、黒刀を女の首へつけ、一気に引き切った。その鋭く黒い刃は、竜を切るがごとく女の首を一発で落とした。


 「アーッ、つまんないィィ!」


 レラが叫び、また風が沸き起こる。これは自然に起きたもので、レラがガリアを遣おうと思っているわけではない。レラの怒りと憤りが、無意識に風を起こしている。


 引っ掴んでいた首をそこらへ放り投げ、レラは避難所へ避難した村の住民めがけて歩きだした。風が、どこに何人隠れているか教えてくれる。五か所……いや、六か所に別れ、総勢は百二十人ほどか……。


 その、全てを惨殺し終わったころ、もう翌日の夕刻だった。途中で仮眠をとりつつ、隠れ怯えている人々や、もうレラが去ったと思い、出てきた人々を隠れていたレラが一人ずつ殺していった。まるで殺人ゲームだった。風が流れて生存者を捜し、一人残らず殺してしまった。まだ残っている家を探って食料や水を見つけるとそれらを口にして、レラは丹念に殺して回った。村にしてみれば、まさに悪夢というほかはない。また、レラによってひとつの村が消滅した。


 それからレラは何を考えたのか、密林を歩いてアテォレ神殿まで向かい始めた。ガリアを遣えばひとっ飛びの距離であったが、レラは漆黒の獣道を歩き通して翌日の未明にようやく神殿へ到着した。もう、神技合(かみわざあわせ)の当日の朝だった。


 「なにをやっていた!!」

 返り血で真っ赤のレラを見て、一睡もせずに待っていたムルンベが怒鳴り声を発した。

 「もう、神官長やカンナは、来ているぞ!」


 だからなんだ、と云わんばかりにレラはムルンベを睨み返した。その殺意だけで、ムルンベが黙る。自分は、とんでもない怪物を生み出してしまったのではないか。いまさら、そう考えなくもない。だが、もう遅い。いまはカンナと神官長に勝つことだけを考えるのだ。


 「アート、どうするんだ」


 疲れ切った顔で椅子へどっさりと座り、ムルンベがつぶやいた。アートも、レラを待ってその夜は寝ていない。椅子に座ったままレラへ、


 「少し休むか?」

 「いや……うん」

 レラはそっけなく云い放った。

 「顔くらい洗え」

 「いやだ」


 レラは、アートと眼を合わそうとしない。けっきょく、レラはその血まみれの姿のまま一刻ほど仮眠し、そのまま神技合の会場へ現れたのである。



 4


 カンナが全身にプラズマをまとい、共鳴を起こす。殺意の渦が、一気にカンナをその中心に巻き起こる。レラは、それを静かに見つめている。


 「カンナ、落ち着け、カンナ!!」


 ウォラの声も、まったく届かぬ。ウォラが渋面する。やはり、アーリーでなくてはだめなのか。ウォラは、チラリと高い位置のクーレ神官長を振り返って見上げた。アーリーを待たずに神技合を行うことにしたのは、神官長だ。何を考えての行動なのかはウォラには測りかねたが、命令には従った。


 (だが、その結果がこれでは……!)


 ウォラが何かしらの手立て……アーリーの影でもガリア「黒檀縁蔓草柄(こくたんぶちつるくさがら)現身銀大鏡(うつしみぎんおおかがみ)」から出そうとしとき、カンナがピタリとその霹靂(へきれき)を納めた。

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