第3章 3-2 囮
(ガリアなんて遣えたばっかりに……ウガマールから派遣されて……可能性が高いばっかりに……あの可能性だって、本当にあの数字なのか、知れたもんじゃない)
「なによお、笑ってるなんて余裕ねえ、カンナちゃあん。カルマはそうでなくちゃあ」
「え……いや、まあ……」
「だいじょおぶよお。あなたは死なないわ。わたしもアーリーも死なない。なぜって? わたしたちはあ、それくらい強いの。わかる? それがカルマのバスクなのよお」
まったくわからない。なんの慰めにもならなかった。
「ところで、二人とも。夜襲の陣形だが」
「分かってるわよお、アーリー。あたしが囮になるわあ。アーリーとカンナは、まっすぐに大将首をねらって」
「えっ、囮!?」
カンナが眼を丸くする。
「だってえ、あたしのガリアはただでさえ光ってるんだからあ、夜襲じゃ照明係みたいなものでしょお。あ、勘違いしないでねえ。アーリーの炎だって明るいし……カンナちゃんのビカビカズババーンだって、夜じゃ目立つわあ。この三人はそもそも夜襲には向いてないのよお。それなのに夜襲ってことはあ……まともに正面から挑んでも分が悪いってこと。あの数だもんね。だから、あたしが最初に竜どもを引きつけるからあ……二人は一気に敵のダールを狙うのよ。それが奇襲の効果」
アーリーは黙って頷いた。
「そ、そんな……」
「あなたに心配される筋合いはないからあ!」
マレッティがケラケラと笑った。カンナは唾を飲んだ。心の準備などという場合ではなかった。もう、何がなんでもやるしかない。やるしか。
三人は無言で、夜を待った。夏の日は長かったが、次第に夕闇が訪れた。マレッティは木へもたれかかって仮眠をとっている。アーリーは地面へ座り込んで、遠目の竜たちを凝視していた。カンナが時間をもてあましてアーリーの後ろに立った。
「アーリーさん……」
「どうした」
無視されると思ったカンナは驚いた。思えば、アーリーとまともに口をきくのは初めてではないか?
「いや、あの……あのですね……」
緊張して汗が吹き出る。眼鏡がずるずると下がった。
「ま、座れ」
「は、はは、はい」
アーリーの横へ腰を下ろす。地面の感触が尻へ冷たかった。
「マレッティの光輪剣が敵を引きつける。マレッティが云うのなら、自信があるのだろう。私が一目散にデリナめがけてつっこむ。しかし、結着はつくまい。なるべくやつへ手傷を与えてみせる。……トドメはカンナが刺すんだ」
「はいっ」
思わず答えてから、カンナは息をのんだ。
「いや! えっ……!? だッ、だ、だめです! むむむ無理です!」
アーリーへ、自分はどのようにアーリーを手伝えばよいのか聴こうと思ったが、それを見越しての、まさかの言葉だった。
「無理も何も無い! 三人しかいないのだぞ! カンナがやらないのなら、誰がやる!?」
初めて聴く、アーリーの強い口調。その炎のような瞳が、カンナを射抜いた。口を開け、息が止まって、カンナは全身が震えだした。
その背中を、アーリーが力強い手で叩いた。眼鏡が飛び、息が戻った。
「自分のガリアを信じろ。ガリアを信じることは、自分を信じることだ。そして自分を保て。竜に呑まれるな。己のガリアに呑まれるな。自分の気持ちに呑まれるな」
アーリーの言葉が、アートと重なった。カンナは不思議な安心に包まれた。
「はい」
心臓の高鳴りが、治まってゆく。




