第3章 2-4 鑑定
神官長がたどたどしいストゥーリア語でそう云ったので、二人は驚いて目を見張った。見た目は日焼けしたストゥーリア人だったし、もっと流暢に話せると思っていたが。
「もう、忘れました……両親がストゥーリア出身というだけで……私はずっとウガマールでね」
それは、もうウガマール語だった。笑顔の優しい、厳粛な老爺という印象だ。
「詳しくはウォラより聞いていると思いますが、カンナを、よろしくたのみますよ」
スティッキィが黙ったままだったので、ライバが何か云おうと思ったが、
「では、お下がりください。神官長様は、皆様のご到着をお待ちになっておられましたが、もうお休みになります。明日、いよいよ神技合が行われます。およそ、二千年ぶりですよ……それへ立ち会える幸運を、お喜びに」
ハシカプに云われ、ウォラとカンナが礼をして下がったので、スティッキィとライバも続く。小神殿を出て、暗がりを歩き、スティッキィ、小声でライバへ囁いた。それも、ストゥーリア語で。
「あいつが根源よ。人の好さげな顔してるけど、カンナちゃんを道具として作った……いえ、名前も知らないけど、カンナちゃんになる前のなんにも知らない子をカンナちゃんへ作り直した張本人」
「わかってる」
ライバの顔も険しい。
「あいつら、こっちに何も云わせなかった」
ウォラは、次に一般用宿舎めいた長屋へ二人を連れた。いよいよ寝るのかと思ったが、違った。長屋は暗く静まっており、一室だけ明かりがついていた。
そこへ、簾を開けて中へ入る。机があり、ろうそくと一人の中年女性がいた。ウガマールのふつうの普段着で、特に神官着でもローブでも何でもない。新ウガマール人で、色黒のサラティス人といった風体をしている。
「ようこそ、ウォラ様。そちらのお二人が?」
「そうだ。スティッキィ、ライバ、順番にここへ座れ」
「なんなのよお?」
眉を寄せ、スティッキィが暗がりに座る。
「お名前と、お歳を」
「はあ? なんなのよお」
「これって……」
カンナは、思い出した。サラティスで、一番最初にやったこと……。
「スティッキィ、答えろ」
ウォラのもの云いにカチンと来つつ、
「スティッキィ。二十」
「88」
女性が断言する。
「ほう……」
ウォラは感心してうなずき、スティッキィとライバを交代させた。
「お名前と、お歳を」
「ライバ。二十三ですが」
「82」
同じく女性が云う。
「わかった。遅くまで待ってもらってすまなかったな」
ウォラが女性へそう云い、三人を連れて今度こそ三人が泊まる宿舎へ向かった。
「なんだってえのよ、今のは! いい加減説明しなさいよ!」
スティッキィがかみついたが、ウォラは無視した。代わりにカンナが、
「二人ともおめでとう! きっと、これがサラティスだったら二人ともカルマだよ!」
え? と、スティッキィとライバが宵闇にカンナを見つめる。カンナは無性に嬉しくて、たいまつをメガネに光らせ、にこにこしていた。
宿舎は遠くなく、今度こそ四人は落ち着いた。それぞれ個室をあてがわれたが、ホールでスティッキィが説明を求めた。
ウォラが立ったまま、話す。
「もう休んだほうがいいから、手短に伝えよう。察しのとおり、アーリーがウガマールのこの能力者を応用し、サラティスで可能性鑑定を始めた。竜退治組合の組織わけのための便宜的な実力判定に応用した。しかしそれは実務的な目的も然る事ながら、真の目的は、カンナの随行者を選抜するためにあった。つまり、いま云われたお前たちの数値……サラティスでは竜より世界を救う可能性とされているが、本当の意味は神代を人間が通れるかどうかの判断数値だ。80以上であれば、通れるとされている。真実は、二千年ぶりだから分からないが……そう云われているのだ。アーリーはカンナが……あるいはカンナに相当する誰かがいつ現れてもいいように、常に数値が80以上の者を探し、身の回りに置いていた。それが、カルマというわけだ。ただ、カルマはここに誰もおらず、まったく関係ない二人が随行の資格があるというのは、皮肉だがな」
「…………」
二人が、いや、カンナも含めて三人が、ぽかんと口を半開きにする。




