表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガリウスの救世者  作者: たぷから
第6部「轟鳴の滅殺者」
441/674

第2章 8-1 追跡、アーリー

 水は薄く青白く、ぼんやりと光っている。

 その顔は悪夢を見ているかの如く疲労と苦悩に満ちていた。

 「無理がたたっております」

 マスクめいた布覆面をした博士の一人が、ムルンベへ報告する。

 「少し休ませぬと……」


 ムルンベが太鼓腹を動かし、無念そうに水の中をのぞき見た。確かに「神技合(かみわざあわせ)」の前に壊れては、元も子もない。


 「どだい、無理だったのか……?」

 「さようなことはございませぬ……と、云いたいですが、このままでは……」


 ムルンベは決意した。この期に及んでは無理にでも休ませ、体力と気力をみなぎらせる時だった。カンナがもうウガマールの目の前へ迫っているときに、無理をしても付け焼刃だ。レラはムルンベにとって道具ではあるが、少なくともただの使い捨てではない。大切に使わなくてはならない。秘宝だ。レラは、ムルンベにとって秘宝だった。クーレ神官長にとってのカンナがそうであるように。使う前に壊れてはどうしようもない。


 「仕方もない。いまは、完璧に調子を整えてくれ。頼んだぞ」

 ムルンベが退室する。

 レラが、うっすらと水の中で目を開けた。

 涙も水へ混じる。

 


 8


 アーリーが急ぎに急いでパウゲン連山を超えたとき、ちょうどカンナ達がサランテで船を使うのを諦めてラクトゥスへむけて歩きだしたころあいだったので、時系列はさらに少しだけさかのぼる。


 途中のスーナー村でカンナの「伝説」を聴き、さらに戦った跡地も検分した。それから一気にパウゲンを下って、バソ村へ入った。そこで半日だけ温泉と食事で英気を養い、再び大股で走って山岳街道を進み、ラズィンバーグへ入ってカルマで手配してあるアパートへ向かう。そこでは、再び一人となった管理人の中年女性がいた。


 「まあ……アーリー様……!!」

 女性は驚いてアーリーを出迎えた。ここに来るとは知らせていなかった。

 「いったい……」


 「事情を説明している間はない。カンナはいつ出発した? ウガマールからどのような使者が来たか分かるか?」


 屋内にも入らず、玄関ホールでアーリーはまくしたてた。

 「ええ……と、ええ……」

 女性は狼狽しつつも、


 「もう七日ほどになります……ウガマールからのお客様というのは、なんという方だったかしら……ひょろっと背の高い女の人で……でも、カンナ様が人知れず出立なさったその夜、そこの階段のところで殺されていたんです……!」


 「なに……!?」


 アーリーは思わず建物から出て、通り向いの石階段を上より見下ろした。すでに血の跡もきれいに洗われている。


 「カンナがやったのか?」

 「わかりません」


 あとから出てきた管理人が、恐ろしげにアーリーへ寄り添って共に階段を見下ろす。不思議そうに商人態の男性がそんな二人を見上げながら階段を上ってきた。


 二人が、アパートまで戻る。

 「ふうむ……」

 玄関ホールで、アーリーが顎に手を当てた。


 「次の日に、アーリー様より指令が着まして、パオン=ミさんは竜でパウゲンを超え、スティッキィさんはカンナ様の後を追って」


 「スティッキィが?」


 アーリーは、やや驚いた風に眼を丸くした。ここでスティッキィが自分を待っていると思っていたからだ。一緒に行こうと考えていた。既に、独自に判断してカンナを追っていたとは。


 と、すれば、とっくに合流して街道を共に歩いているだろう。少し、安心した。


 (問題は、誰がウガマールから迎えに来たのかだが……最初に来ていた使者が殺されたところを見ると、大密神官の手の者であったか……ということは、後を追い神官長派から誰か教導騎士が迎えに来た……まさかアートではあるまいな。ウォラか?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ