第3章 2-4 黒猫
「黒猫……事務職員は黙ってろよ。バスク同士の話だぞ」
「残念ね。事務やってるけど、私もバスクなの。可能性は77……所属はしてないけど、コーヴ級よ」
「なんだって!?」
フレイラは信じなかった。
が、暗い床へ、キラキラと光る紐のような、糸のような何かが蠢いて、フレイラとカンナを囲っていた。正体は分からないが、黒猫のガリアだ!
「う……」
フレイラも黙らざるを得ない。こんなときに、正体不明のガリアとやり合うつもりはなかった。
「わかった? 計算のほうが得意だから、カルマに雇われてるだけ。初めて竜と本格的な大規模戦闘が始まるってんで、忙しいのよ。ホント、やるなら前もって準備しておくべきよ。いきなり云われても困るんだから」
黒猫が、鋭く眼鏡の奥よりフレイラをにらみつける。フレイラは視線を外した。
「わかったらとっとと寝てちょうだい。カンナは、明日は出陣なのよ。あんたは黙って、都市防衛の指揮をとりなさい。アーリーはそれが最適解と判断したんだから。従わないと、勝てるものも勝てなくなるわよ」
声にならない唸り声を上げ、フレイラは階段を上がって行った。
「あ、あの……」
「仕事の邪魔!!」
「はいっ!」
カンナも逃げるように自室へ戻る。カンナは、もう会えないかもしれないと思い、アートのところへ行こうとしていたのだったが、行きそびれた。
翌日、未明。ひっそりとアーリー、カンナ、そしてマレッティのカルマ三人が出陣した。
「助っ人ってどこお? アーリー」
「供には行動しない。挟撃するかっこうになるだろう」
「……そうなの?」
マレッティは曇った顔で正門から都市とカルマの塔を見返した。これで見納めとでもいうように。カンナも、街道より門と城壁、そして塔の先端を何度も振り返った。
その街道を行く小さな点を、城壁の見張り台よりフレイラが腕を組んで見つめていた。まったくの無表情だった。フレイラは、三人が街道を進みゆるやかな坂を越えて見えなくなるまでそこに佇んでいた。やがて朝日が完全に登ると城壁を下り、自らも正門から出て三人の後を追った。




